東京シャッフル

@tsugimomo

プロローグ


最下位は双子座のあなた!


嫌な予感が的中するかも~。家から出ないことをおすすめします!!


ラッキーアイテムはピザです◆




 「この1位と最下位を毎回最後に発表するのなんとかならんのか...」


俺は朝の貴重な時間をドブに捨て、いつもどおり適当に身支度を済ませ部屋をあとにした。




 「ん?―――朝から宅配ピザ??」



向かいの部屋の宅配ピザが目にとまる。 


直感ではあるがコレに関わってはいけない気がした。




 「朝からあんなヘビーなもんよく食えるなぁ」


箱にレシートが貼られているので最近流行の"チャイムダッシュ"だろう。

宅配員がブツを置きチャイムを押して走り去るその光景は、一昔前のピンポンダッシュというイタズラによく似ている。


 だがこの時代では匿名性の高いサービスでかなり有名だ。


2022年、正東京都(セイ・トウキョウト)は”高度情報化成長“を掲げ街や建物の至る所にカメラを設置。

政府の24時間体制によって治安は保たれているように思えた。


 しかしここ数ヶ月、不可解な誘拐事件がネットで多数報告され後をたたない。


それらはSNSで瞬く間に広がり、市民はプライバシーと監視社会への信頼を失っていった。

噂が過剰になりやすいのが情報化社会の恐ろしいところ。

中には配達員になりすまし誘拐しているという噂も流れた。


 そんな日々が続き、いつしか人々は必要最低限の接触しか行わなくなってしまった。




 ...俺の父は随分前に誘拐された。



昼はサラリーマン、夜は”残業の夜明け団”とかいう秘密組織のリーダーだった。

 その日は組織ごっこの緊急集会に行ったきり戻らず、母と秘密の施設を見に行った。


 そこに父とメンバーはいなかった。


 荒らされた跡と靴跡の付いた父の退職届の封筒だけが残っていた。



母はその退職届を父の形見として大事にし、正東京都で一人暮らしを始める俺に御守として渡した。


 「御守にしてはいろいろ重いけど、まあどうか親父が無事でありますように」


そう小さく祈り俺は学校へ向かった。








 「スプライトフラペチーノで静電気クリームトッピングのグランデサイズ下さい。」


アパートから徒歩5分のドロミーズコーヒは毎日うちの学生で賑わっている。


 「ご一緒にコーヒーの試飲はいかがですか〜?」

 「大丈夫です、本当にありがとうございました。」


ここのコーヒーは特殊な味がするので毎回遠慮する。


 「あれ~?高校生にもなってまだコーヒー飲めないとかウケるんだけど笑」


この声は生徒会長の月見里うさぎ(つきみさとうさぎ)。

超がつく大富豪の娘で女子高生モデル人気No.1というまさに才色兼備。

ドジで貧乳でロリ体型という現代社会の男性ニーズにも答えた志向の存在。

もちろん校内男子からも崇められている。

 だが年上巨乳キャリアウーマン派の俺からすればただの世話焼き女子にすぎない。


 「お節介とか思ってないよね?!こんな美女が同席してあげてるんだから少しは緊張でもしたら?」

 「神よ、どうか彼女に胸を与えたまえ」 


うさぎの肩パンがカフェテラスに鳴り響く。




 「女の子のコンプレックスばっかり言ってたらモテないよー 」


音を頼りに親友の最上もみじ(もがみもみじ)が心配そうに来てくれた。

もみじはダークウェブを巡回するのが趣味のオカルト仲間であり親友だ。


 俺たち3人が毎朝こうしてカフェに集まようになったのはつい最近。

 ある事件がきっかけになったのだ。


それは2週間前の放課後、俺ともみじが立ちションしようと廃墟になった体育館へ向かっている時だった。



◆◆◆


 「おろか、ションベン中で悪いんだけど俺ら誰かに見られてない?」

 「あぁ、あれはおせっかい生徒会長うさぎだ。注意しにわざわざ後をついてきたというのか...」


うさぎがこちらに向かって走ってきた。


 「神野おろかと最上もみじ! ここでトイレって…あんたたち馬鹿じゃないの!?!?」


立ちション終わり特有の身震いがした。


 だが次の瞬間、その場の全員に悪寒が走った。


 「シッ! まだ他に誰かいる!」




鳥肌が止まらない。


誰もが昔から持ってる“嫌な予感を感じる力”。

そして”嫌な予感は当たる”という謎のルールはいつも独りでに働く。


 3人で恐るおそる中を除いた。



 「ど、どどういう事よこれ...」


薄暗い体育館に浮かぶ10本の光の剣。

1人の女子生徒は逃げる間もなく、その場で串刺しにされた。


 そして奥からはカードを手に笑う銀髪の少年が現れた。


 「これは【Ten of Sword】ソードの10。ねぇ綺麗でしょ?! 残念、君はもう二度と動けないよ☆」

 

 「............。」


 「政府の僕に従えばこんな手荒なことしなかったのに☆」


 「...。」


 「あぁあぁ出血しすぎ、ゴミを誘拐しても使えないんだよねー。」

 「まぁせいぜい残りの人生楽死んで☆」


そう言い残し少年は10本の剣を一枚のカードに収め暗闇へと消えた。


 俺達は誘拐事件が政府によるものと知った。

 そして同時に謎のカードの力の前ではなす術がないと理解した。

 力を持たない俺達はまるで政府主催の殺人ショーを見せれられたただの観客。


悔しさや怒り、虚しさと絶望全てを味わった最悪の事件。

これがきっかけで俺達3人は命を義に捧げ誓う。


  正東京都に平穏を取り戻すと。


◆◆◆


 「でもあんた達大胆な事思いついたわね〜、まさかそのカードで対抗しようなんて」

 「人間命がいくつあると思ってんの? そもそもカードすら見つかってないのよ?!」


 「命は1つだが俺達は1人じゃない」

 「俺の親父もまだ死だわけじゃ...とにかく今は出来ることからやるんだ。」


正直うさぎは頭も良く言ってる事も正しい。

だが結果が出るまでは耐える他ない。


俺は僅かな可能性があれば信じ、膨大な数の策を張り巡らせた。

 それはまるで大きな蜘蛛の巣にかかる小さな虫を待つかのよう。



 「2人とも張り詰めちゃってー、今日は最高の知らせを持って来たよ。」

 「言ってた例のカードだけど...昨夜”ブラックマーケット”でそれっぽい出品を確認した。」


 「まじか?!」


俺とうさぎは思わず声が大きくなった。


ブラックマーケットとはダークウェブで行われる闇オークションだ。

異科学薬品や寄生物兵器、人工生命産業廃棄物など歪んだブツが法外な値段で取引されている。


 「サイズから見た感じタロットカードかな?」

 「まあカードの裏面だけしか公表してないし多分これ詐欺だと思うけど...どうする?」


 「十分すぎる...この出品がカードの存在をほぼ裏付けた。」

 「良くやってくれたもみじ!!」


 「それを私が爺やにお願いして落札すればいいわけ?」


 「頼んだようさぎ...俺達には君の金が必要なんだ!」


俺ともみじが目を潤わせる。



「パチンカスの彼氏でももっとオブラートに言うわ」


うさぎの肩パンが二発鳴り響いた。

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