第1話 『恋愛戦線』が二人を繋ぐ

 僕、冴木秀行さえきひでゆき冴木秀行がネット小説家になったのに、大した理由はなかった。

 

 ある日、複数のネット小説を読んでも微妙に満足できなかった時に、ふと思ってしまったのだ。


「面白いネット小説がないのなら、自分で造ればいい」

 

 ネット小説を書くのは簡単だ。

 ネットへ繋ぐ端末とメールアドレスさえあればいい。

 もちろん、作品の出来は度外視すればの話だけど。


 そんな思い付きの結果、ネット作家皆月凍矢(みなづきとうや)は誕生した。

 このペンネームも適当だ。

 自分の誕生日6月18日をもじっただけなのだから。

 

 こうして、僕は思い付きで小説を書くようになった。

 最初は自分が好きな作品を書いていただけだが、次第に読書の評価が欲しくなった。


 といっても、ものすごく努力したわけではない。

 ネット小説のランキングを読み、流行りをチェックし、流行のジャンル、設定の小説を書いていく。

 ただ、それだけであった。

 

 それほど真剣に書いていたわけでなかったが、僕にはそこそこの文書能力と執筆速度があったようで、ランキングトップ10とか、書籍化の打診などは華々しい活躍はないけなれど、そこそこのポイントと感想をもらっていた。

 固定のファンも2名ほどついた。


 上を向けば頂上は遠いけど、僕的にはこれで十分だった。

 

 梅雨の頃、僕は授業を終えると、学校の図書館へ向かった。

 勉強のためではない、小説の執筆のためだ。

 

 図書館の閲覧スペースのいつもの場所に座ると、タブレットで小説投稿サイト「ノベルアップ+」のマイページ画面を開いた。


 今、書いている作品のタイトルは「恋愛戦線」


 異世界に転生したごく普通の高校生が、恋人の人数だけ能力値やスキルが増強すきるチートスキル「恋愛無双」を手に入れ、ハーレムを楽しみながら魔王を倒すという物語だった。


 物語としては中盤、そろぞろハーレムメンバーが増えすぎて、僕の筆力では捌ききれなくなってきていた。

 だが、立ち止まれない。

 ネット小説は更新頻度も人気を得るためには必要なのだ。

 

 さあ、どんな展開にしようか……

 精神を画面に集中した瞬間、狙いすましたように僕の背後から声が聞こえた。


「ねえ、冴木くん、もしかしてネット小説家皆月凍矢みなづきとうやさんなの?」


 顔をあげると、眼鏡をかけた少女がいた。

 一度も話したことがないけれど、たしかクラスメイトのはずだ。


 たぶん。


 名前は憶えていないけど。


「君は……」

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