第2話 読書ウサギは現実で跳ねる

「え、同じクラスのなのに覚えていないの?」


 困ったように彼女は言った。

 なんかすみません。


「藤原、藤原綾乃ふじわらあやのよ」


 自己紹介してくれたが、ピンとこなかった。

 

「あ、冴木君というより皆月凍矢先生なら、こちらのほうがわかりやすいかな」

 

 彼女は悪戯っ子のような笑みを浮かべる。


「皆月先生、読み専の『読書ウサギ』です。いつも作品、楽しく読んでいます」


 藤原さんは知らなかったけど、読書ウサギさんは知っていたし、交流もあった。


 なぜなら、ハンドルネーム「読書ウサギ」は、ネット小説家皆月凍矢の熱烈なファンの一人だったからだ。


「え?」


 藤原さんの自己紹介に、僕は驚きの声しか出せなかった。


 藤原さんは現実(リアル)

 読書ウサギさんは仮想(ネット)


 その2人が同一人物だなんて、僕の想像を超えていた。


「だから、私が『読書ウサギ』なの? わかる?」

 

 読書ウサギさん、僕が小説を書き始めた頃からの読者であり、丁寧に感想を書いてくれたファンだ。

 もう一人の熱狂的な読者「暗黒卿」あわせて、『読者の双璧』と密かは僕は名付けていた。

 

「ちゃんと聞こえている?」


「あ、ああ」

 

 戸惑いの声しか僕は上げられない。


 自分の過去のメッセージを思い出し、リアルばれしても大丈夫な内容だっかを確認する。


 たぶん、大丈夫だ。


 なんとかぎこちない笑みを浮かべることに成功した僕は、口を開く。


「そ、そうなんだ。奇遇だね、びっくりしたよ」

 

 ちょっと声が裏返ってしまったが許容範囲内だろう。


「私も超ビックリだよ、心臓が5秒は止まったよ。なんせ、大ファンだったネット作家が同級生なんて」


「そ、それはどうも。そんなに面白かった」


「うん、私は冴木君の小説が大好きだよ」

 

 そう言いながら、藤原さんは笑った。




 その時に藤原さんが浮かべた笑みを、僕はきっと忘れないだろう。




「ア、アリガトウ」


 なんとか返事はしたが、まるで外国人のようなカタコトだった。


「ねえ、冴木君。とりあえず、友達になりましょ?」

 

 これが僕と彼女の出会いだった。

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