Ⅱ第二十話 身分調査

「ニーンストン、おれの特殊能力は知ってるだろう?」

「はい。ナナナイザーなんちゃら」


 アナライザーなんだが、それはどうでもいい。


「受付の調査、あれ、アテになんないぞ」

「えっ?」


 おれは憲兵本部に入ってから、ここまでの出来事を話した。


「ゴレンゴイルっていいですね。いや、笑ってる場合じゃないか」

「そうだ。お前の隊にも、どんなやつが入ってるかわからないぞ」


 ニーストンは、それでもどこかノンキに笑みを浮かべていた。


「まあ、仕事にあぶれたような、いい加減なやつが多いんでしょうね」


 そうだ。ニーンストンに話してないことが、もう一つあった。


「ところで、ニーンストン」

「はい」

「アドラダワー、いるよな」

「はい。あの院長の」

「暗殺者に襲われたぞ」

「なっ!」


 ニーンストンが言葉を失った。そうなんだ。この島は、けっこう大変なことが起きているんだ。


「間違って襲われたんじゃないですか? 大先生ですよ」

「ニーンストンも世話になったことがあるのか?」

「もちろん。俺ガキのころ体が弱くて。あの人いなかったら生きてないですよ」


 ニーンストンは特別大きな体ではないが、骨太に見えていたので意外だ。


「銅像があったら、お供え物したいぐらいですよ」


 アドラダワーの銅像、ほんとにできそうで笑えた。


「だがな、ニーンストン、暗殺者は病院内にいたんだ。狙いは院長しか考えられない」


 ニーンストンは腕を組み、真剣に考え始めた。飲み過ぎて牢屋で寝るようなやつだが、根は真面目なんだよな。


 憲兵はどうでもいいが、ニーンストンは心配だ。こいつの隊にへんなヤツが紛れていたら危ない。


 ひとつ、アナライザースコープの大安売りをしてみるか。




「いいか、貴様ら、憲兵にとって一番大事なのは剣の腕でも体力でもない。心だ」


 10人ほど並んだ新兵の前で、ニーンストンが能書きを垂れている。おれは真後ろの壁ぎわでイスに座っていた。新兵の説教をしている隙に、アナライザーをかける作戦。


「アナライザースコープ・・・・・・よし」

「アナライザースコープ・・・・・・よし」

「アナライザースコープ・・・・・・まじか」


 のっけから三人目で偽名を使ってるやつがいた。ニーンストンに書いてもらった手元の名簿に×をつける。


 残り7名にも順にかける。結果、もう一名が偽名を使っていた。


 ニーンストンに向けてうなずく。「終わったぞ」のサインだ。


「・・・・・・ということだ。今後も気をつけて励んでくれたまえ」

「はっ!」


 新兵が部屋を出ていく。おれはニーンストンに名簿をわたした。


「10名中2名ですか」

「ああ、多いのか少ないのか」


 戸籍のない時代だ。流れ者も多い。偽名なんかは当たり前かもしれない。あれ? そう考えると別に「カカカ」を名乗る必要ないのか。でも、おれ自身、もはや馴染んできてんだよな。


「もう10名いいですか?」


 もちろん、うなずく。




「いいか、貴様ら、憲兵にとって一番大事なのは剣の腕でも体力でもない。健康だ! きちんと飯を食い、寝る。フロも入れ、臭いからな。それから・・・・・・」


 ニーンストン、二回目で説教が適当になってるぞ。まあ、いいか。自分の仕事をすることにした。


「アナライザースコープ・・・・・・よし」

「アナライザースコープ・・・・・・よし」

「アナライザースコープ・・・・・・よし」


 おお、今回は異常なしからスタートだ。さっきが「たまたま」だったのか。


 そのおれの安心は、七人目で止まった。


  名前:フーゴ

  職業:盗賊


 んがっ! 盗賊、シーフとも言う。パラメータ画面を見つめていると、視線を感じた。いつの間にか、そのフーゴが振り返ってこっちを見ている。


 けっこう歳食ったオッサンだ。目線が合う。真面目そうな眼鏡をかけているが、その奥の目は怖かった。


「どうした? アルフレッド」


 ニーンストンが声をかけた瞬間、盗賊オッサンは走り出した!


 だが、扉を開けて出ようとした所で何かが飛んだ。それはオッサンの足首にからまり転ぶ。素早くニーンストンが駆けより背中を踏んだ。


「動くな」


 さすが副隊長。動きが速い。剣の切っ先を首筋に当てる。


「ニーンストン、そいつ盗賊だ。名はフーゴ」


 フーゴはあっという間に縄で縛られ連れていかれた。


 しばらく待っていると、ニーンストンが帰ってきた。


「大陸のほうから回って来た手配書に、名がありました。脱獄犯ですね」


 脱獄犯か。アドラダワーの件に繋がるかと期待したが、関係ないな。おそらく逃げてこの島に流れ着いたんだろう。


「アドラダワー院長の暗殺者、それも探ってみますよ」

「ああ、頼む」


 この島にとって重要な人だが、おれにとっても大切なジジイだ。絶対に殺させねえぞ。


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