Ⅱ第十九話 改革された憲兵隊
西の港町にある憲兵隊本部に着いた。
ガレンガイルが憲兵を辞めてから、用事がないので一度も来たことはない。
赤レンガの頑丈そうな建物は同じだった。だが、正面玄関を入ると受付ができていた。受付の憲兵に聞いてみる。
「三番隊のニーンストン副隊長に会いたいのですが」
受付の若い憲兵は、帳簿のような厚い紙の束をめくった。
「ニーンストン副隊長に面会、そのような予定は聞いておりませんが?」
「ああ、予約はしてないんだ」
「では、面会の申請をし、あらためてお越しください」
ああ、アポ取ってないもんね。んじゃ。・・・・・・って帰りそうになったわ!
憲兵ってな警察みたいなもんだろう。緊急の用事とか考えないのか?
「緊急の用事なんです。取り次いでくれませんか?」
若い憲兵は面倒くさそうに一枚の書類を出した。
「では、緊急用申請に記入ください」
ああ、はいはい。・・・・・・って、緊急の意味ねえ! 人の命がかかってたら、どうするんだろうか。書いてる間に死んじゃうぞ。
とりあえず、今日は命がかかってないので書くことにする。名前の欄で思わず止まった。
おれの名前は憲兵内でも有名、そうニーンストンは言っていた。面倒なことにならないか。実際、あの大騒動だって、おれのせいだと言うやつもいないことはない。
違う名前にしとくか。ダメだったら野鼠亭で会えばいい。だが、もしニーンストンに連絡されたら、おれだとわかったほうがいい。
頭をひねり、ひとつの名前を書いた。
「ゴレンゴイルさん、ですね」
「ああそうだ」
「職業は猟師と」
「そうだ。こいつが猟犬のポチ」
おれは足下を指した。若い憲兵が身を乗り出してハウンドを見る。
「では、そのまま動かないで」
若い憲兵は魔法石をだしてきた。おれの頭にかざし、光らす。
「それ、なんです?」
「透視石です」
「とうしいし?」
「相手の能力がわかります」
おれのアナライザー・スコープみたいな物か! これ、まずいかも。
「レベルは・・・・・・11ですか。まあ猟師ですからね」
若い憲兵が空中に目を走らせながら言った。パラメータを見ているのだろう。
おれはずっとレベル上げの部屋に行ってない。パラメータは更新されてないようだ。面倒だし、自分のレベルに興味がなくなったからだが、それが功を奏したようだ。
「攻撃力も低いし、魔法も使えない。特に危険人物ではないようですね」
相手の能力は見えるけど、名前は見えないのか。なんか基本が抜けてるな。
「アナライザー・スコープってなんです?」
おおっと、なんて言おう。アナライザーって、おれも意味知らないしな。スコープはファイバースコープとか言うよな。覗く機械、そんな意味か。
「スカートの中のパンツが覗けるスキルです」
「いいですね!」
おっ、変態めっけ。
「失礼しました。では検査は終了です。ニーンストン副隊長は、現在、自室にいます。うしろの階段を上がって三階、一番奥です」
おれは吹き出したいのをこらえ、その場を離れた。
三階に上がり、廊下の突き当たりまで歩いた。ここだな。ノックをする。
「はい、どうぞ」
ニーンストンの声だ。扉を開けて入る。入口に向いて置かれた机で、ニーンストンは事務作業をしていた。顔を上げると、すぐにおれだと気づいた。
「カカカさん! どうしました」
おどろいたようだ。
「それよりニーンストン、受付の。なんだあれ」
「ああ・・・・・・」
ニーストンは頭をかいた。
「新しい憲兵総長が、やたらと効率を気にする人で」
効率、悪くなってると思うけど。まあ余計な事は言うまい。
「それで、何か?」
ニーストンはイスから立ち上がった。
「急ぎの用事じゃないんだ。この前にもらった行方不明者な」
リュックからオリヴィアの書類を出した。ニーンストンに見えるよう机の上に置く。
「この子の両親が知りたいんだ」
ニーンストンが書類に目を落とした。
「それは申請者の欄に・・・・・・ああ、職場からですか」
ニーンストンは考え込んだ。
「魔法局が申請者だとなると、申請が出されたのは城内の守備隊のほうですね」
なるほど。東の城下町は守備隊の管轄、そんな話を以前にガレンガイルから聞いた。
「ちょっと面倒だなぁ」
「ここには記録がないのか?」
「はい。こういう紙が回ってくるだけですね」
守備隊に聞いたほうが早いのか。でも教えてくれるだろうか。
「守備隊と憲兵って、仲が悪いのが昔からだそうで・・・・・・」
ニーンストンは気乗りしなさそうだった。でも、頼んだほうが確実だ。ここは素直に全部を話そう。
「オリヴィア」
おれがつぶやくと、オリヴィアがおれの横にあらわれた。
「カカカさん、良かったらコーヒーでも・・・・・・」
キャビネットの前に移動していたニーンストンが振り返る。手にはカップを二つ持っていた。あっ、まずい。
「うわぁぁぁぁ!」
ニーンストンはのけぞった。手にしたカップからコーヒーがこぼれる。
「熱っつ!」
おれは仲間の精霊だと説明した。仲間になった経緯も話す。
「なるほど、あの時の死霊が、こんな姿に・・・・・・」
そうだった。ギルド近くで倒した時、ダネルだけじゃなくニーンストンも現場にいた。
「それで家族を探してると。カカカさん、あいかわらず、やっかい事が寄ってきますね。大変だ」
憲兵服のシミを拭きながら、ニーンストンが笑った。
「うーん・・・・・・」
机の後ろにある窓から外を眺めた。やっかい事ではあるが、行方不明のままってのも家族がかわいそうだ。
窓からは調練場が見えた。たくさんの憲兵が調練をしている。ほとんどが新人なんだろう。大変と言えば、ニーンストンも大変だ。
新兵を見ていると、ひとつ、嫌な予感がした。
「おい、新兵ってどうやって集めたんだ?」
ニーンストンが不思議な顔をした。
「そりゃ、募集をかけてです」
「まさか、さっきの検査で身分調査、とかじゃないよな?」
ニーンストンが首をかしげた。
「ええ。あの検査ですよ」
・・・・・・だめじゃん!
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