第110話 新しいスキル

 バルマーは、おれの前に現れた幾何学模様の扉を眺めた。


「魔法陣の扉ですか。なかなか古風な特技をお持ちで」


 こっちのスキルを知ってた!


 これは古風なのか。あらためて目の前の扉を見る。描かれた光の線は、光る水が流れているようにも見えた。ちょっと、さわってみる。


「熱っつ!」


 中指の先を見た。当たった1ミリほどが真っ黒に焦げている。怖っ!


「そこの三人が、これを出すようには見えませんね」


 バルマーはステッキの先を広間の入り口に向けた。火の玉が出る。


 火の玉は入り口の扉を吹き飛ばした。その後ろにいたのは、同じ「魔法陣の扉」で身を守るマクラフ婦人だった。


「そうでしょう。ですが、これで対等になったと思われては困りますね」


 今度はステッキの先をくるりと上空に向け、何かを唱えた。


 なんだ?


 何が起きるのか身構えていると、遠くから羽音が聞こえる。広間の頂上に空いた穴からデスモダスの大群が入ってきた!


 こっちに向かって一直線に降りてくる。


 ガレンガイルが剣の柄に手をかけた。おれはその手を押さえる。この密集でロングソードを振り回せば、危ないかもしれない。おれはポケットから火炎石を出した。


「ふたり、台になって!」


 ティアの声に意味はわからないが、ガレンガイルと並んで四つん這いになる。その上にティアが立った。


 デスモダスが迫る。


 群れの先頭に自分の頭より高いハイキックで迎え撃った。三匹ほどが、まとめて吹っ飛ぶ。


 デスモダスは急に方向を変え、今度は横から来た。ティアは振り上げた脚を素早く下ろしカカトをぶつける。


 さらに下段、中段、上段と三連蹴り。特殊スキル「クリティカル・ストライク」の乱れ打ちか!


 デスモダスの群れは高く舞い上がり、広間の天井をぐるぐる回った。台になったおれとガレンガイルの目が合う。


「ほらなっ! 結婚したら大変なのはおれだろ!」

「あれは」


 ティアの声に首をひねって頭上を見た。空中を移動する黒い陰。悪霊だ。


 ティアに下りてもらい、おれは火炎石を構える。その腕を今度はガレンガイルが押さえた。


「試してみる」


 ガレンガイルはそう言って、大きく三歩下がった。


 剣を抜き、下段に構えて目を閉じる。


 師匠、何も今、学習意欲を出さなくても!


 死霊の女とぶつかった時を思い出した。おれは体内に魔法があるから助かった。普通の人間がぶつかるとやばい!


「師匠!」


 悪霊がガレンガイルに迫った。かっ!と目を開き、剣を一閃。


 空中に光の筋が残ったように見えた。通り過ぎた悪霊は真っ二つになっている。それは別々の方向にしばらく漂い、空中に消えた。


 空気が震える音に振り返る。バルマーが火の玉を放った。


 ガレンガイルが扉から少しずれている。あわてて服を掴んで引っぱった。その拍子にガレンガイルが剣を落とした。師匠が剣を落とす?


 パラメータを急いで確認した。


  名前:ガレンガイル

  職業:戦士

  レベル:26

  体力:260

  魔力:0


 体力が50も減ってる!


 見れば、ガレンガイルの手が痺れたように震えている。おれは回復石を出した。


「すまん、カカカ」


 おれは石を握ろうとして、ある事を思いついた。


「師匠、むちゃ言っていい?」

「なんだ?」

「さっきのそれ、飛ぶんじゃね?」

「無理よ!」


 ティアが横から言う。


「だって、バルマーも、マクラフ婦人も、離れた相手にスキルを出してる。おれが喰らったトカゲ馬の魔法にも似たような斬撃の魔法があった。師匠なら、できるんじゃね?」


 ティアは首を振った。


「ぜったい無理、そんなの聞いたことない!」

「カカカ殿は、その技を見たことがあるのか?」

「ない。でも、似たようなのは聞いたことがある」

「その名は?」

「鎌鼬」

「カマイタチか。心得た」


 ガレンガイルは震える手で剣を拾った。


 無茶は承知。でもガレンガイルみたいなやつは、日頃から自分の技や動きを研究しているはずだ。一つ壁を乗り越えたら、大きく違ってくるんじゃないか?


「師匠、おれが引きつけて火を出す。その隙に」


 ガレンガイルはうなずいた。おれは回復石をティアに渡し、リュックから反射石と火炎石を取り出す。


「バルマー!」

「なんでしょう?」


 バルマーは石の玉座に座って余裕の構えだ。


「お前な、かっこつけてるけど、その長髪、すげえダセーぞ」


 バルマーはふっと笑って髪をかきあげた。


「それを上回る、ダセーのがある」

「ほう?」

「そのカチンコチンってスキルは! 超絶ダセー!」


 おれは扉の横に出て、火炎石を向けた。同時に反対の手で反射石を強く握る。


 バルマーが目を吊り上げて立ち上がり、ステッキを振った。おれの手前で「パシッ」と音がすると同時に、おれの火炎石からも炎が出た。


 扉の反対側にガレンガイルが出た。担ぐように剣を構え、「ドン!」と踏み込むと、袈裟斬りのように斜めに剣を振った。


 何かが飛んだ。


 バルマーの頭が弾かれたようにのけぞった。戻った時には額の右端が切れ、血が垂れている。


 ガレンガイルにはダメ元で言ってみたけど、出しちゃったよ。やっぱ師匠はスゲー!

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