第107話 地下の大広間
「うへー、食欲なくすわ」
飛び散ったトカゲ馬の破片をよけて進む。そして大きな扉の前に立った。
「いよいよだな、カカカ」
ガレンガイルの言葉に、おれはうなずいた。
リュックから魔力石を取り出し、婦人の魔力を回復させた。魔力石は、まだ十個ほどある。残りは全部、彼女に渡した。
回復石、火炎石、反射石、これの予備もみんなで分ける。
煙玉を出して、みんなに見せた。
「これをおれが使ったら、各自、一目散に逃げるように」
ティアとマクラフ婦人がうなずく。
「師匠、その時はおれが! なーんて考えないように」
言われたガレンガイルは目を丸くしている。
「なぜ、わかった」
おれは首をすくめた。わからないほうがおかしい。
四人と二匹で扉の前に立った。オヤジさんは扉の前で待機してもらう。
ガレンガイルが剣を抜いた。
「この仲間で戦えることを、誇りに思う」
ちぇ。師匠が言うと様になるなぁ。左にいたティアをそっと見る。指先が少し震えていた。おれが見ているのも気づかないようで、一度開いて、固く拳を握る。
「ティア」
「な、なに?」
「オッパイ、縮んだろ?」
「ああっ! やっぱり見てた!」
その向こうにいたマクラフ婦人が首をもたげた。
「帰ったら、大きくなる運動、教えてあげるわ」
「はいっ、ぜひっ!」
わお、それ、おれも知りたい。
「じゃあ、ちゃちゃっとやって帰るか」
おれは扉を開けた。
そこは巨大な空間だった。
天井はどこまでも高く、山のようになった頂上は丸い穴が空いている。そこから夜空の星が見えた。ここから街に死霊を放っていたのか。
どこかに水場があるのか? ジャバジャバと水が流れている音がする。慎重に部屋に入った。
所々に太い石の柱が置かれ、ランタンを掛けていた。廊下から敷かれていた赤い絨毯が、中まで続く。
絨毯の上を進むと、三方から登れる階段の丘があり、その頂点に石の椅子があった。まるで玉座だ。
階段の近くには噴水があった。水の音はこれだ。
噴水は中央にある背の高さほどの円柱から、四方に水が吹き出していた。円柱の後ろに人影。
「たどり着いたのは、たった四人、というわけですか」
人影が声を発した。おれは剣を構え直す。
バシャバシャと膝上ほどの水をかきわけて男が出てきた。バルマーだ。それも真っ裸。
バルマーは噴水の端に置いていた木綿のガウンを羽織り、サンダルを履いた。おれと目が合い、意外そうな顔をする。
「おや、勇者カカカ。隣は憲兵隊長」
次に反対を見た。
「その、ご令嬢は、あいにく存じ上げませんが、マクラフ。冒険者に戻りましたか」
なるほど、バルマーはギルド局長だったやつだ。マクラフ婦人の前歴を知っているのか。マクラフ婦人は羽ペンを持ち、おそらく魔法を仕掛けるべきか考えている。
「今宵は蒸すので、水浴びをして待っていたところです」
「服を着られよ、バルマー局長」
ガレンガイルが言った。
「無用です」
バルマーは、立て掛けていたステッキを取った。
どうする、仕掛けるか?
おれは、ゆっくりと左腕のポケットから火炎石を取り出した。バルマーがこっちに歩いてくる。まったくの無防備だ。これは、どう見てもチャンス!
火炎石をバルマーに向けて強く握った。火の玉がバルマーに飛ぶ。バルマーはステッキで火の玉をはたいた。
ガレンガイルの身体が沈み、弾けるように飛び出す。特殊スキルの「神速の踏み込み」そこから上段に剣を構え振り下ろす。「一刀両断」だ。
バルマーはそれを半歩ずらしてかわし、ステッキでガレンガイルの肩を叩いた。剣を振り下ろした体勢のまま、ガレンガイルは固まった。
左からティアが飛ぶ。アゴを蹴り上げようとした。バルマーは上半身をのけぞらせ、それまでかわした。
ティアが着地したと同時に背中をステッキで叩いた。
その時、バルマーの動きも止まった。
横を見るとマクラフ婦人がバルマーのほうに手をかざしている。こっちもマヒ呪文!
おれとハウンドがバルマーに向かって走る。バルマーは首をひと振りしてマヒを解いた。じゃま臭そうにマクラフ婦人に向かってステッキを振る。おれは急停止した。
「待て! ハウンド」
ハウンドはバルマーの目前まで駆けていた。ステッキを振られ、地面にこけた。そのまま固まる。
くそっ! ものの数秒でこれかよ!
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