第94話 ギルドで待ち合わせ
空は夕焼けで赤くなっていた。もうすぐ日が暮れる。
ギルドまで来ると、玄関前に馬車が停められていた。たくましい馬にボロい荷台。憲兵の馬車だ。
ギルドに入ると、もう三人が揃っていた。
マクラフ婦人は前に見た鎧。背中に弓を装備している。腰には短剣が下げられていた。
ティアは、鉄板付き穴あきグローブは変わらないが、左腕に籠手。それに胸当てが加わっていた。
靴は編み上げのブーツ。少し変わっていて、ひもが後ろ側だ。おそらく足の甲やスネにまで、薄い鉄板が入っているのだろう。
ティアのすべての装備には、赤い布が装飾として使われていた。頭にかぶった赤い布とマッチしている。かっちょええやん!
ダンの野郎、ティアの装備には見た目まで凝ってやがる。
ガレンガイルの見た目も変わった。黒いロングコートに黒い革手袋、それに黒い革のブーツ。
鎧を装備するかと思ったら、あの兄弟の見立ては違うらしい。俺と同じチェーンメイルを中に着ていた。剣は腰に差さず、背中に背負っている。
「師匠、その剣」
「ロングソードだ」
ガレンガイルは、背中に掛けていた剣を鞘ごと外した。けっこう長い。80か90cmぐらいはありそうだ。
「それに片刃だ」
そう言ってガレンガイルは剣を抜いた。重そうな両手持ちの鉄の剣。
「盾は要らないの?」
「ああ、すべて剣でさばいたほうがいいと言われた」
ダンの見立てでも、この男は戦士というより、やっぱり剣士なんだな。
「使ってみて、どう?」
「それがな、意外としっくりくる」
ちょっと持たしてもらおうかと、荷物をおいた。
いや、やめよう。女性陣二人の目線が冷たい。
「男ってね、すぐ自分のものを見せたがるの」
マクラフ婦人がティアに言っている。ティアがうなずいた。やめて、そういう意味深な言葉を乙女に教えるのは。
魔力石の入った袋をそれぞれに渡す。何が入っているかも説明した。
ガレンガイルとティアは、それぞれの石を服のあちこちに隠されたポケットに忍ばせた。そうか、二人の服もメイド・イン・ネヴィス兄弟だ。
それを見た婦人が「やあね、わたしだけ、お古みたいで」と言うので笑ってしまった。
ガレンガイルはロングソートを背中に戻すと思いきや、それは手に持った。松明を乗せた背負子を背負う。
おれが頼んでいないのに、これは自分の荷物だと思ったらしい。師匠って、やっぱり男前。
松明を背負うガレンガイルを見て、気づいた。マッチを忘れてる。行きがけにダネルの道具屋に寄ろう。
「じゃあ、行こうか」
玄関に歩き出した時に入ってきた者がいた。若き憲兵、ニーンストンだ。手には盾と剣を持っている。
「カカカ殿」
おれは首を振った。
「悪いね。今日は大人だけのダンス・パーティーなんだ」
そう格好つけたが、ニーンストンはティアを見た。しまった。また格好つけ損なった。
「それぞれ自分の持ち場があるだろう。今宵は、そこをしっかり守るのが務めだ」
ガレンガイルが言う。ちぇっ。腐っても元隊長。言葉がしっかりしている。
「でも隊長! こんなギルドランクSSS級の事件! 僕だって!」
「ふえ? そんな大層なことになんの?」
冒険者というのは、ギルドで達成した仕事によってランク付けがあるのは知っていた。
Eで始まり、最上位がAだ。さらに、その上に「S」があると噂されるが「SSS」なんてのがあるのか?
おれはマクラフ婦人を見た。
「そうね。こんな島だから、ランク上がってもそれほど意味ないけど、今回はSSS級が取れる条件の一つ『国の危機を救う』に該当するわね」
「ちなみに、おれのランクって何ですか?」
「カカカ? カカカは『C』ね」
ぶはっ。めっちゃ低い。
「ちなみにSSS級が取れたら、どういう風に変わるんですか?」
「難易度の最高位、星10まで受けれるし、国から直接依頼が来たりするわね」
あれ10まであるんだ。怖っ。あと国からって……メンドくさそう。
「ランクアップしない方法ないのかなぁ」
「ええっ? SSS級よ!」
「だって、メンドそうで……」
「カカカ殿らしいな」
ガレンガイルが笑う。おれは若者の肩を叩いた。
「まっ! それより帰ったら飲もうぜ」
若者の目が少し明るくなった。
「はい! ぜひ、その時は僕のおごりで」
「それは二杯目にして下さい。一杯目をゆずる気はありません」
そう言って出てきたのは、交渉官グレンギースだ。グレンギースの前に、おれは手を差し出した。
「ゲンは担ぐほうなんでね」
グレンギースは窓口を振り返った。
マクラフ婦人がハンコを押した依頼書が、山のように積んである。おれがまとめて受けた死霊退治の依頼だ。
「そこだけじゃないですよ、おれのゲン担ぎは」
グレンギースがはっとする。最初に握手したのを思い出したようだ。強く、おれの手を握った。
「お気をつけて」
おれはうなずいて、ギルドを出ていった。
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