第66話 砂場の少女
それから一ヶ月というもの、多忙、という文字が相応しい毎日だった。
午前中には飛び飛びではあるが、初等学校の授業が入る。夕方からは憲兵隊長のガレンガイルが稽古をつけてくれる。その合間を縫ってギルドの仕事だ。
火急案件は前にも増して依頼が来る。おれを指名した依頼が増えた。
忙しいとはいえ、一日の内の二つが仕事ではない。そして仕事の依頼は、じいさんばあさんが多い。報酬は安かった。いっこうに収入は安定しない。
とどめは高価な買い物だ。決められた時間が多くなったので、おれは生まれて初めて「懐中時計」なる物を買った。
この世界に電気はないが、ゼンマイ式の時計はある。鎖のついた小さな丸い時計で、押せばパカッとフタが開く。
これが、こちらではかなり贅沢品で400Gもした。「貧乏、暇なし」とは、まさにおれの事。
食事なんかは二の次で、昼飯は馬車の移動中に食べた。夜は家で教科書を読みながら、干し肉をかじる。
人生で一番勉強したと言っても、過言ではない。なんせ、早く初等学校に行くのを終わらせたい。
学園生活なんて最悪だ。小学一年生におっさんが交じるのである。馴染めるわけがない。だが、それはクラスの子供たちも同じだ。気まずい雰囲気を味わせて、気の毒な事この上ない。
おれのそんな学園生活が変わったのは、意外にも小さな少女がきっかけだった。
それは休み時間だった。
休み時間と言っても、1時間目を受けた次は3時間目だった。2時間目が丸々する事がない。かと言って、帰って休む時間もない。
校庭の隅にある樹の下に座り、古代文字の教科書を読んでいた。
同級生、と言っていいのだろうか。おれのクラスの子供たちが、校庭で遊んでいる。ほかのクラスの子も同じ運動の時間のようで、運動場はにぎやかだった。
運動の時間は自由で遊んでいい時間のようだった。まあ、元の世界で言えば小学校一年生だ。まとまってスポーツをするのも、まだ無理だろう。
他の子供たちが球蹴りや、鬼ごっこのような遊びをしている中、ひとり、砂場で山を作っている少女がいた。
おれは立ち上がり、尻についた土を払うと、ハウンドを連れて砂場に行ってみた。
少女は、金色に近い薄い茶色の毛を三編みにしていた。ほっぺには少しソバカスがある。おれがガキのころ、ばあちゃんが持っていた「フランス人形」にそっくりだ。
この子の名前は知っている。おれが初めて来た時、おしゃまな注意をした女の子だ。
「カリラ、みんなと遊ばないのかい?」
「遊ばないわ!」
おれは頭をかいた。気になって来てみたが、子供にかける言葉なんか持ってない。何を言うべきか考えていると、少女はぷいっと、どこかに行った。
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