第44話 ティアとレベルアップ
ギルドに着いた。
二階へ上がろうと思ったが、おれの姿を見た交渉官グレンギースが駆け寄ってくる。
「お元気になられて、なによりです」
「グレンギース殿、この間の依頼ですが」
「事情は聞いております。調査中ですが、早目に決着をつけます!」
交渉官は怒っているようだ。ありがたい。
「調査が済むまで、しばらく死霊退治を中断してよろしいですか?」
おれはうなずいた。死霊ならいいが、また怨霊が出たら倒せる自信はない。一礼して戻ろうとする交渉官を呼び止めた。
「星一つの案件で火急があれば、連絡下さい。じいさんばあさん限定で」
「それは助かります! ぜひ連絡させていただきます」
交渉官は深々と礼をして去っていった。
ティアとレベル上げの部屋に入る。人間二人と一匹入れば、なかなか狭い。
おれが先に水晶をさわる。おれとチックのパラメータが書き換えられた。
この前の爆発時にレベルは3だったが、あれからしばらくぶり。おれのレベルは6になった。チックは3だ。
チックの魔法を確認する。
「ニードル・ブリーズ」というのが追加されていた。やはり、攻撃魔法が進化している。しかし一方で魔力は「1」のまま。イタチの最後っ屁みたいだな。
自分たちのパラメータを閉じて、ティアに向き合った。
「これは、知ってるよね?」
ティアがうなずいて水晶に触った。ティアの身体が鈍く光る。
「特殊スキルを確認してみて」
おれも確認できるが、若い娘のパラメータをのぞくのは失礼だ。ティアに読ませる。
「クリティカル・ストライク?」
うわお! 強そうな名前。
「じゃあ、出よう」
ティアを連れてギルドを出た。街路樹の下にあるベンチに腰を下ろす。
「自分の特技に、思い当たるものがある?」
「ぜんぜん!」
「おそらく、いや、間違いなく、会心の一撃だ」
「カイシンノイチゲキ?」
この世界でドラクエのキーワードは、メジャーな言葉ではないみたいだ。
「何回かに一回、攻撃力の1.5倍から2倍のダメージを与えられる。かわされる事もまずない」
「あたしの特技が?」
ティアは自分の両手を見て、閉じたり開いたりした。
「殴って出るのか剣でも出るのか? それは試してみないとわからない。蹴りで出るのだけは、たしかだ」
「あの気持ち悪いカラスね」
「そう。あの時、何をした?」
「とっさに身体が動いたの」
「なるほど。それでだいたい、この手のスキルがあるタイプは、武闘家だ」
ティアがぽかんと口を開けている。
「武闘家? あたしが?」
「冒険者申請する時、職業を書いたと思うけど、何にした?」
「あたしはまだ学生だから、書かなくていいよ」
おお、なるほど。
「武闘家にならなくてもいいけど、素質があるのは武闘家だ。ただ、その前に、どう思う?」
「どうって?」
「冒険者について」
ティアは両足をぶらぶらさせて、遠くを見つめた。考えているようだ。
「この前がすごすぎて、何も考えれない」
そりゃそうだな。
「まあ、おれは、お勧めしない。とだけ伝えておくよ」
ティアは考え深げにうなずいた。わかってくれたかな。
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