【勇者カカカの冒険】▷はじめから つづきから

代々木夜々一

【勇者カカカの冒険Ⅰ】▷はじめから つづきから

第0話 プロローグ

「チック! 撃て!」


 遠くの地面に向かってさけんだ。


 地面にいるのは小さな赤いサソリ。名はチック。おれの仲間だ。


 その仲間のサソリが、ぶるぶる!と赤い身をふるわせた。チックの魔法だ。夜の闇に光の矢が走る。


 光の矢は、対峙たいじするトカゲのような馬の首に刺さった。ぶきみな黄色い目がこっちを見る。


「効いてねえのかよ!」


 おれは「メイル」と呼ばれる細い剣を抜いた。


 こんなバケモノが、なんでクソ田舎に。しかもここは民家の密集する場所だ。


 相手は、どう見たってバケモノ級。今まで倒してきたモンスターと迫力がケタ違いだ。


 トカゲ馬が、ゆっくりと近づいてきた。おれもゆっくり下がる。うしろからうなり声がした。新たな敵ではない。さっき仲間になったノラ犬だ。


 おれはレベルも低い。魔法も使えない。おまけに仲間はサソリと犬。泣けるぜ!


 逃げだしたいが、そうも言ってられない。となりの家から人がでてきた。このあたりに勇者や戦士は住んでいない。戦えるのは、おれだけだ。これ、やるしかねえぞ。


 おれは、今一度、剣のつかを握りなおした。


 その昔、文句を言いながら毎日残業していたころがなつかしい。まさか、あの日から、こんなことになるとは……


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