第16話 フナッシー
良かった! 氷屋は開いてた!
「おう」とオヤジさんに声をかけられる。
おれはポケットの銅貨を出した。あと8枚か。
明日に、おにぎり買うだろう。二個は欲しい。依頼を終えて報酬がもらえればいいが、何かあればヤバイな。一番安い物にしよう。
「氷、一つ」
注文してテーブルで待った。今日、ティアはいないようだ。
しばらく待っていると、カウンターに皿が置かれる音がした。
「はいよ」
おれは席を立った。カウンターの上に置かれた皿を見て、首をかしげる。
「あれ? オヤジさん、頼んだのは氷菓子だよ。羊肉パンじゃないよ」
「しまった! 聞き間違ったか。もったいねえ。こっちで勘弁してくれねえか?」
もちろん、おれはうなずいた。
テーブルに持って帰り羊肉パンを見つめる。旨そう。肉は焼き立てだ。匂いだけで、よだれが出る。
両手で持ち、かぶりつこうと口を開いた時に思った。間違えるものだろうか?
カウンター奥のオヤジを見た。洗い物をしているようだ。心の中でオヤジに手を合わせ、かぶりつく。
「うんまい!」
「へへ。ちょうど肉を焼いたところだったからな。焼き立ては旨いだろう」
嘘つけ。店じまいの最中じゃねえか。
よし、おれは今後、人生で一番美味しかったパンは「氷屋の羊肉パン」としよう。
あっという間に平らげ、水を一杯もらい、飲み干す。旨かった。
「オヤジさん、ありがとう」
「おう。冒険者らしくなったな。がんばれよ」
おれの身なりを見て言った。なるほど、そのへんからも、おれにカネがないのを予想したか。
帰り道、氷屋の畑をふと見ると、一匹の小さな動く物が見えた。
フナッシーだ。アイツ、まだいるのか。おれが逃してやったのに。
オヤジさんに踏み潰されるのがオチだ。せっかく一度助けたのに、ほっとくのも寝覚めが悪い。今度はもっと遠くに投げてやろう。
フナッシーは畑の奥に逃げていく。
「おいおい、殺さないから逃げるなよ」
白菜みたいな野菜の下に逃げた。近づいて葉をかきわける。フナッシーは丸い玉に乗っかっていた。なんだこれ。
フナッシーごと、持ち上げてみる。おれの世界で言うと、ゴルフボールぐらいの大きさだった。水晶玉かとも思ったが、薄っすら黄色い。戦闘の時に出てくる宝石のカケラではない。人工的な、きれいな丸だ。
アナライザー・スコープを使っていないのに、敵のパラメータが開いた。
なんだ? 次ページを示す矢印が光ってる。焦点を合わせてページをめくった。
親密度:20
まじか! モンスターも仲間にできるのか! なんだか色んなRPGの要素が、ごちゃまぜだな。
しかし、フナッシーを仲間にしてどうすんだっての。まあ、独り身なんで、してもいいけど。
そう思った瞬間、おれの身体とフナッシーの中から、小さな光の粒が出てきた。それはゆっくりと相手に進み、お互いの中に消えていった。
自分のパラメータのパーティー欄を見る。「フナッシー」が書かれてあった。おいおい、思った瞬間に成立するのかよ。今後、気をつけよう。
フナッシーを黄色い玉に乗っけたまま、岩場に移動した。フナッシーを地面に下ろす。
「もう、畑に来るなよ。潰されんぞ」
言っても解んないだろうけど、一応言っておいた。
さて、家に帰ろう。黄色い玉は胸のポケットに入れた。明日にでも、道具屋で聞いてみよう。すごい金になるかも。
家に向かって歩いていると、後ろからカサカサと音がする。
嘘でしょ。振り返った。フナッシーがついて来ている。
二つ、解ったことがある。
一つ目、フナッシーは道を移動している。仲間になったモンスターは、人間の土地に入れるらしい。
二つ目、仲間の縁の切り方を、おれはまだ知らない。これも早い内に誰かに聞こう。
フナッシーが足元まで来て止まった。これ、子犬だったら最高なんだけどな。
さて、どうするか。胸のポケットに入れる事もできるが、さすがに気持ち悪い。ブーツを片方脱いで、その中に入れた。
せっかく買った靴下、これで汚れるな。ため息をついて、おれは家に向かって歩き始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます