第14話 テケテテッテッテー♪

 目を覚ました。


 家の前にある小川に出て、顔を洗う。近所の人とすれ違ったので「おはようございます」と挨拶しておいた。

 

 部屋に戻り、机のイスに腰掛ける。今日する事を考えた。


 ギルドで報酬を貰い、両替所で昨日の水晶を両替する。あっ、急ぎで必要なのは防具か。


 壁に立て掛けた棍棒を見た。武器もだな。あれは自分にまったく合ってない。しかし、武器と防具、どちらに金をかけるかと言えば、今は防具だろう。


 圧倒的に経験がないのだ。何が起こるのか、まったくわかってない。


 経験、それで思いだした!


 自分のパラメータを出す。戦闘で経験値がかなり貯まっていた。テケテテッテッテーとか音がして、勝手にレベルが上がるもんかと思ってた。誰かに聞いてみないとな。


 背伸びをして、部屋を見まわす。なんだろうな。妙な開放感がある。


 あ! 出社時間か!


 やらなければいけないことは多いが、何時までにどこ、という決まりがない。


 これ、人生初なんじゃないか? 学校、そして社会人、必ず朝は何時までにと時間の拘束はある。学生時代の夏休みがあるが、大人になってからは初だ。


 すげえ開放感。せっかくだから二度寝してみようと、ベッドの上で横になる。


 なんかイマイチ。がっつり目が冴えている。


 とんだ皮肉だ。ぐうたらできる状況になったら、ぐうたらしたくない。それなら出掛けるか。


 部屋を出ようとして、一つ、思いだした。リュックの中の兜だ。ずっと持っているのは面倒すぎる。


 隠す所を探したが、いい場所はなかった。布でも買って、くるんでベッドの下に置いておくか。


 ああ、あとついでに服と石鹸だな。あればハブラシも。


 家を出て乗り合いの馬車を使う。二時間ほどで西の港街に着いた。


 さて、両替所に向かう。昨日の戦闘で拾った水晶を出した。しばらく待って、お金が出てきた。銅貨が39枚に、銀色の硬貨が1枚。んん?


「これ、銀貨ですか?」


 おれの質問に、窓口のおっさんが不思議そうな顔をした。


「はぁ、そうですが」

「銀貨って、銅だと、いくらでしたっけ?」

「はあ? 100枚ですよ。次に銀貨10枚で金貨1枚」


 おお、単純だな。うん? じゃあ139G?


「水晶を40個出したはずなんですが」

「いいえ。アメジストが1個ありましたので」


 あっ! と思いだした。水晶の中に色のついた石があった。水晶だと思っていたが、それ以外の石もあるのか。


 なるほど、そしてたまに、同じモンスターでも違う石を持ったやつがいるのか。臨時ボーナスみたいな気分。


 ウキウキで帰ろうとしたが、一つ気づいた。銀貨があるなら、昨日も銀貨で出せよ。おれは昨日から300枚以上の銅貨をじゃらじゃら持ち運んでいる。


 今日の窓口のおっさんは悪くないので、怒るのも違うか。お願いして、手持ちの銅貨も銀貨に両替してもらった。


 そして次にギルド。


 空いてる窓口は、と見ると、もはや運命。無愛想な、おばちゃん。


 おばちゃんに完了した依頼書を渡す。無言で50Gが出てきた。今日は、昨日に増して不機嫌だね。


「あのう、経験値ってどうやって」


 そこまで言うと、おばちゃんは上を指した。二階に行けって事なんだろう。おれはきちんと社会人的に「ありがとう」と言って、二階に上がった。


 二階に行くと、いくつもの扉が並んでいた。冒険者らしい装備をした人々が出たり入ったりしている。


 一番近くの扉を開けた。中に女性がいた。向こうもぎょっとしている。


「さーせん!」


 謝って、すぐに閉めた。隣の扉へ移動する。ノックしてみた。もはやトイレだな。


「ああ?」


 ガラの悪い男の声がした。次に行こう。


 次の扉をノックする。変事はない。誰もいないようだ。


 部屋に入ると、ほんとにトイレぐらいの広さだった。壁にランタンが灯され薄暗い。


 木の台があり、その上に水晶の玉が乗っていた。もう、見た目、占い師のあれだ。


 さっきの女性は水晶をさわっていた。おれもさわってみる。


 頭の中に、戦闘の記憶が走馬灯のように駆け巡った。水晶が記憶を読み取っているみたいだ。


 自分のパラメータ画面が出る。数値が上がった。そして、見間違えでもなんでもなく、身体が一瞬光った。


「おお……」


 しばらく、その場で固まった。ちょっと感動したからだ。産まれて初めて、魔法みたいなもんを体験した。


 それに身体が光った時、ちょっと気持ちよかった。女性なら「うふん」とでも言いそうな気持ち良さだ。


 コン、コン。


「あっ、今出ます!」


 水を流そうとして、思わず笑いが出た。だめだ、この部屋の狭さが、どうしてもトイレに思えちゃうな。

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