吸血鬼の治し方

ぽかんこ

第1話

「そういえば、近頃鬼が出るという」


 よもぎが突然、そんなことを言い出した。

 いや、突然、という言い方は少し違う。ぼくたちはこの発言の前まで、この世の中に存在する魑魅魍魎の類の噂話をしている最中だった。ここはぼくの部屋だ。内装はベッドに机、クローゼット、本棚、いたってシンプルだ。


「鬼?」

「そう。まあ鬼といっても、どうやら日本古来の鬼とは風貌が少し異なるようだ」

「珍しい鬼なのか?」

「その鬼にはいくつかの特徴がある。現れるのは例外なく真夜中。人気のない道で、ひとりで歩いているときに出くわす。突然現れて、いきなり首筋にがぶりと噛みついてくる。その容姿は、白髪で長髪、白い肌。シルエットはか細く、肌着くらいの薄い衣服。頭にはキャスケットをかぶっている」

「徘徊老人を探す町内放送みたいな情報だな」


「はあ、最初に出る感想がそれとは」

 よもぎが心底失望したような視線をこちらに配る。

「それよりもまず、この材料からなにか思い当たることはないのか。首筋をかむ、白髪、白い肌、真夜中。……鬼は鬼でも、吸血鬼だよ」


「吸血鬼」


 ヨーロッパで古くから囁かれる伝承。人間の血液を飲み、永遠の命を持ち、太陽に当たると灰になって消える、吸血鬼。まあ、ありえない話でもないか。ここ数か月の出来事で、ぼくの常識は完膚なきまでに破壊された。今ではぼくも、立派なこちら側だ。


「目撃情報は比較的多い。古いものだと一年前。その辺から今に至るまで、定期的に話題になる。吸血鬼に遭ったなんて言えば信じる人間は皆無だろうが、同じ噂がよそから聞こえてきたら、信憑性は増していく。最近では不審者が出るからといって、学校では夜遅くをであるかないように注意しているらしい」

「そんなに、広まっているのか」

 噂話程度なら、まだいいのかもしれない。しかしそれが真実として、現象として、より多くの人間に認識されてしまえば、その存在はより強いものになる。そうしたら最後、非科学的な存在は、非業の結末を遂げる。

 曖昧だからこそ、存在を許される者たちだっているのだ。


「そんなに頻繁に目撃されるなんて、怪異の風上にも置けないやつだな」

 本物の怪異でもない僕がいえた立場じゃないんだけど。

「ちょっと調べてみるか」

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