第22話 友達ってなんですか?
大きな魔力を持つ貴族と言うのはそれなりに厄介を呼び込む。ノアの父であるセルム・リンドブルム侯爵は多大な魔力を持ち、多くの貴族達から疎まれており暗殺を目論むものが日々絶えなかった。
幼い息子のノアはまだ魔力が開花しておらず、父と母に愛されて育っていた。しかしその幸せは長く続かず、真夜中に屋敷に火を放たれノアの両親は亡くなった。
ノアはまだ幼いこともあり、爵位を引き継ぐことが出来ず王に爵位を返還しリンドブルム家は没落した。そして両親が死んでからその魔力を開花させたノアは親戚を転々と移り住んだが疎まれた。自分達もノアを飼っているといつか殺されるのではと怯えたのだ。
そんなノアを見兼ねてかつてノアの父親のセルムの友達であった俺の父…ポール・ルーペルト・ルンドステーンがノアを引き取った。養子ではなく俺の従者としてだ。
「アクセル…この子はノア・リンドブルム。今日からお前付きの従者だ。両親を亡くした子だが、年も近いし仲良くしてやってくれ」
と父が言い、俺は綺麗な銀髪と蒼い瞳の美少年と対面した。
「アクセルだ。よろしくノア」
「よろしくお願いしますアクセル様」
とノアはにこにこ挨拶した。
こいつ…両親が死んで暗い奴かと思ってたのに案外元気じゃねぇかっ!…が俺の第一印象だ。親が死んだんだのに薄情な奴なの!?
それとももしかして心がぶっ壊れてにこにこしてるのかもしれねぇ!!
可哀想な奴…。
「おい、ノアちょっとこっちへ来い」
「はい?」
とノアはこちらへやってきて俺はゴソリと引き出しから女の下着を見せた。
「どうだ!?これメイドが履いてたやつだ!下着をくれと言ったらくれたんだ!お前も嗅げ!気分が良くなるぞ?」
「なんでそんな変態なことしなくてはならないのです?意味が解りません」
と真面目に返すノア。
「えっ!?何でって…お前はお子様か!?お前元貴族のくせにそっちは教えて貰えなかったのか?……まぁまだ幼かったからか?でもそろそろ目覚めるべきだと思うぞ?いろいろ吹っ切れるから…」
と言うとノアは言った。
「別に必要ありません、私には生涯をかけてただ1人しかこの身を捧げると決めた好きな子がいてその方と出逢った以上は他の女の人が履いたモノなんて無理ですね」
とバッサリ言いやがった!
好きな子?
「誰だその好きな子って?」
「何で教えないといけないんでしょうか?雇い主のご令息様と言えど私事の私情に関係ございません」
と言う。なにいいいい!?
と腹立つと同時にこいつの好きな奴一体誰だろうかと気になり始めた。
絶対突き止めてやる!と決めた。
それから俺はあのメイドの女の身体はいいぞとか、あっちの女は尻がデカいだのとノアを唆しまくったが、こいつは何の興味も示さず、そのうちに鬱陶しくなったのか女を俺に差し出すようになる。
俺もそれは美味しくいただいたが、結局こいつの好きな奴って誰だ?
そんな中夜会で【黒蝶の月】というご令嬢が噂になり始めた。その時はよくある夜会でモテる女の1人か。ふーん。みたいな感じで特に気にしなかったが、ノアの反応がちょっとおかしいかな?と感じた。
その話が話題に出ただけで女を押し付けられた。
これは何かある!?
と思って俺はその女との見合いというか婚約者にしてノアの反応を見てみようと思い立った。ノアは見合いが決まると明らかに焦りを見せ狼狽している!
姿絵を見る限り美人の黒髪に翡翠の目だった。なるほど…この女か…と当たりをつけてからかってみた。
「へぇ、美人だな。こんなご令嬢なら今までと違って結婚したら毎日抱き潰せるなぁ!」
と言うとノアが見たこともないくらい睨んだ。
一瞬殺されるかと思った。
「あれれ?何怒ってるの?ノア?」
「怒ってませんっ!!他のご令嬢とは色々なさってるのに…」
とぶつくさ言っている。もうこいつだ!この女がノアの好きな奴決定だ!!
「ふへへ!見合いが久しぶりに楽しみだわ!!」
「………アクセル…!」
といきなり俺を呼び捨てにした。初めてだった。どうしやがったこいつ!
ちょっとだけ嬉しい!こいつをここまでにこんなにしちゃう女がますます興味深い!綺麗な女は沢山いるが何でこいつなんだろう?どこで逢ってたのか?
子供の頃から一途に想い続けていることは何となく知っているから俺は流石にからかうのはやめて見合いで会ったらその女とノアをくっ付けてやろうかと思った。
「何だノア?大丈夫心配すんな、俺に任せておけ。幸せになるから(お前とこの女が)」
「くっ!アクセル!(ぶっ殺す!)」
ノアはブルブル震えている。俺のお膳立てにきっと感動をしているのか?
「俺のことようやく呼び捨てにできるくらい仲良くなったな!ははっ!」
「アクセル…本当にこの方とお見合いする気なんですね…」
とボソリと言っていたような気がする。
その後見合い相手が行方不明で見合いが嫌で男と逃げたとの噂が広まり、俺は何て女だ!と思った。ノアが可哀想じゃねーかと!!
「くっ!ノア!後もう少しだったのに!畜生!(すまん!!)」
「情報によれば彼女の母親もこの騒ぎで使用人と駆け落ちしたみたいです」
「何だと!?そんな母親の娘なのか!?何て奴だ!その母親ありの娘か!信じらんねえ!許せん!婚約なんて解消だ!ふしだらな!(ノア可哀想に!)」
と俺が言うと若干ノアはホッとしていた。
それから好きな女が男と逃げて元気ないだろうと俺はノアに俺が先に食った女でもと贈ってやる。あんな女忘れちまいなと言う思いで渡すが無視され全て断っていた。
ノアは普段通り仕事を終えて相変わらず俺に女を寄越していた。
しばらくするとノアは時折帰宅を早くするよう仕事を片付けて帰りが待ち遠しいみたいな空気が判った。長い付き合いだしな。これは変だ。
そしてある日手を怪我して汚い包帯の巻き方をしてきた。これは…。おかしい!ノアなら片手でも綺麗に巻けるだろうしそもそも怪我なんかするようなドジはしねえ!
……これを巻いたのはノアじゃねぇ!包帯の巻き方も知らねえ令嬢だろう。…そして行方不明になった姿絵の女が頭に浮かんだ。そしてノアは時折包帯を見て微笑むような顔!
全てのピースが嵌ったような気がした!!
この野郎…。ノアお前が…女を拐ってどっかに隠したのか!!と俺は気付いた。
*
「というわけだな……。俺の方が気付いたのは…」
「貴方を甘く見ていました。ただのヤリ●●野郎としか見てなかったのですが…はぁ。私の方は先程お話したことで全てです。憲兵に突き出して私を逮捕してお嬢様を家に還してあげてください…」
「はあ?お前やっと結ばれたんだろ?何アホなことを言ってる?それに逮捕?それでいいのか?俺も気付いていて黙ってたんだぞ!?」
「でもアクセル…私は普通に考えて犯罪を犯してます…」
「でも今はそのお嬢様と愛し合ってるんだろ?ていうか童貞捨てた感想言えよ!」
「いや…それに浸る余裕なくて恐怖に震えてましたから…」
「あ、ああグレイのくだりか。お前見間違いだって…ヤッて頭がスパークしてたんだよきっと。童貞捨てる奴にはきっとよくあることだよ」
「え…そんなばかな…」
とノアが言ったが無視して
「ともかく!ハーグストランド伯爵に会いに行く!そして全てを話して謝罪しろ!!」
と俺がなんとかすると言うとそこへ
バーンと扉が開かれた!!
そこにはエルサが立っていた!
「聞きましてよノア!!」
「奥様!!」
「エルサ!お前!立ち聞きすんなよ!!」
と妻に言うがエルサは
「ただ会いに行くなど生温い!アホですかアクセル様!!そんなことではハーグストランド伯爵は許しませんよ!結局は貴方の従者がやったこととして処理されるだけ!そうなるとノアはそのお嬢様と本当に駆け落ちしてしまいますわ!」
「何!?そ、それは今ちょっと困るぞ?まだ俺も解んないとこ多いし、領地経営とか…」
「今まで遊びまくっていたツケですわ、アクセル様!ノアに任せきりだったではないですか!…おほん!そこで提案ですわ!私がお父様にお話してお父様のご友人であるこの国の王にノアに再び爵位を授けてはどうかと話します!」
「なっ!?奥様!?」
「大丈夫です…ノアは領地経営も十分できますしそれにその類稀なる魔力ならきっと有事の際に役に立つ人材です。この国の王が渋るなら我が国から爵位を授けるようお父様に言いましょう!ノアが不正を働く領主をちょちょいとやっつけてくればそこの領主に空きができますからね」
と隣国の元王女である妻は笑った。
「しかし…そんなことが本当にできるのか?」
「出来るのではなくやるのです!アクセル様!私だってノアのお嫁さんとお話がしてみたいわ!」
「まだ結婚してません!」
とノアが言うと
「そうだな!ならとっとと爵位持ってお嬢様の両親へ挨拶に行けよ!ついでに『私が悪漢からお嬢様を助けました』ってことにして結婚しな!なぁに、真実なんてここにいる奴等は黙っててくれるさ!」
と俺はまた聞き耳を立ている使用人パウルにマウリッツにエドガーを呼び出した。
「ノアくん…君を失うのは非常に残念だが…私も君には幸せになってもらいたいし、君の父の代わりとして式に参列したいと思っている!」
と執事長エドガーが泣いた。
「いや…あのですね…執事長のことは父親の代わりとは別に思ったこと…」
とノアが言うとエドガーは
「そうか!君も私を父さんと呼んでくれるか!!ありがとう!!」
と押し切った。
「……………」
するとマウリッツも
「俺は最初からノアさんの味方っすからね!絶対誰にも言わないんで幸せになってくれっす!」
「ノアさんに爵位戻んならよ、俺ここ辞めてノアさんとこで働こうかなぁ」
「あ、それいいっすね!」
「お前ら!いい加減にしろ!!」
と俺はキレる。
ノアはそれに嬉しそうに
「ありがとうございます!アクセル様!奥様!皆さん!!」
とお礼を言いやがった!
「よし!決まりだな!ノア上手くいったらお嬢様味見…」
「させるわけないでしょう?アクセル殺すぞ?」
とにこりと黒い笑みを浮かべたのでやめておこうか。エルサも睨んでるし。
*
それから私はヴィオラの元へと帰った。
そして今日あった事をお話すると
「まぁ!!そんな手があったのね!?それならきっとあの頑固なお父様と弟もきっと許してくれるわ!そして正式にノアさんと結婚できるじゃない!!」
と言うから私も嬉しくて抱きしめた!!
彼女も背中に手を回して嬉しそうだ。
こんなに幸せな日が来ようとは思わなかった。
「ノアさん…いい友達に恵まれたわね…」
とヴィオラが言うので
「うーん?友達とはなんですかね?私はアクセルを友達と思ったことはないんですよね?何か向こうは勝手に友達友達と言ってくるんですけど…。ただのヤリ●●野郎としか思ってなかったのです」
と言うとヴィオラは
「うーん、そ、そうね…それはいちいち考えなくてもいいんじゃない?でも困ってる時に相談したり励ましたり助けてくれたり力になったりするのが本物だと思うわ…」
「そうですか…ヴィオラが言うならきっとそうなんでしょうね。ありがとうございます」
「わ、私はノアさんが泣いて頼むから好きになっただけよ!!」
「えっ!!?そ、そうでしたか!?」
一体ヴィオラの中でどうしてそうなっているのか判らないが彼女は照れ屋な所もあるしもはやこの折角の関係を崩したくなくて私は直ぐに折れる。
「そうよ!…結婚に向けて頑張りましょう!ノアさん!」
とヴィオラが私の頰にキスをする。
「にゃっ、話が纏まった所でご飯にするにゃ!!ご飯!ご飯!」
とミラちゃんがおねだりしてスリスリすると茶トラのシルルが目だけ開けてこちらを見た。シルルは無口みたいですね。でもお腹も空いてることは判りました。早く元気になってほしいものです。
*
その後私はなんと元王女の口利きのお陰で何だか自国の王からポーンと爵位を譲って貰い、再びリンドブルム家が侯爵位に治まった。領地経営に王宮魔導師の地位まで貰ってしまい、私は暫く忙しくなった。アクセル様に仕事の引き継ぎをしっかり教え込んだ。
ヘトヘトになって帰るとヴィオラが少しずつ家事をする様になって、まだ食えたものじゃない残骸が捨ててあり勿体ないから拾って今度不整を働く悪い貴族が寝てる隙に口に突っ込む用としてこっそりマジックポケットに仕舞い込む。
たまに寂しい時にヴィオラは甘えて可愛い下着を着てベッドで待機していたりするからもう完全にヤバイ。疲れが吹っ飛ぶくらいドキドキして愛し合う。たまに変態なプレイも頼んでみるんですが断られた。
「誕生日くらいにして!」
とか言われた!!一年に一回ですか!だがそんな焦らしご褒美プレイなら待てる!!
そんなことをしつつ、準備が完全に整ったところで私達…アクセル様にエルサ様に王国騎士団長シェル様とヴィオラと私はハーグストランド伯爵邸にやって来た。
「許してくれるというか…大掛かりな嘘をついてしまうわけですけど…大丈夫でしょうか?」
と私が心配すると全員私に
「「「「嘘も方便!!」」」」
と言い切った!!
ヴィオラは私の手を握りしめて笑うと自らの生家に足を踏み入れた。
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