第20話 博物館と最終日の夜

 それから私達は旅行を物凄く普通に過ごした。

 街に来る音楽団の演奏を聞いたり、歴史ある博物館を観たり、実験好きな私はホムンクルス失敗博物館や魔女博物館を巡ったりした。

 博物館ばっかりじゃないか!って?

 だって好きなんだもん博物館。しかも自国に無いものは興味深い。


「お嬢様の実験好きは心得ているので。この国は博物館が沢山あるので結構有名らしいです。お嬢様の好みに合うかと思って」


「まぁ!流石ノアさん!じゃあ人体実験博物館とかもあるの?」


「ええ、もちろん!後で行ってみましょう!」

 と結構引くような会話が朝食の席で行われていたりした。他の客は美男美女が変な会話をしているので既にドン引き始めていた。


 私は2日目にノアさんを看病したけどノアさんはさっぱり高熱で記憶にないようだ。

 まぁ口移しとか恥ずかしすぎて言えないし!


 私も悟られないよう普通に振る舞った。だからノアさんも普通に接した。旅行中ある意味でそこは気楽かもしれないわ。


 でも明日で最終日で、宿に泊まるのも今日で最後なのだ!な、何も進展しない!!


 そう言えばミラのお土産をまだ買ってなかったわ…。まぁ猫如き何でもいいか。


「お嬢様…今日はちょっと面白いかどうかは判りませんが良さそうな博物館を見つけました。ガイドブックに載ってました。巨大昆虫博物館と未確認生物創造博物館です…。時間的に一つしか周れないんですけど、どちらにしますか?」


 なっ!なんて興味をそそる名前の博物館なの!?流石私を小さい頃から覗き見ていたノアさん!私の好みや興味ある分野、ちょっと普通の人が見たら引くような趣味なのによく調べてくれたわ!


「そうね…未確認生物創造博物館かしら!凄いつまらなそうな内容が創造できるからあえてそちらがいいわ!!」


「判りました!ではそちらへ向かいましょう」

 とノアさんはガイドブックに丸をつけて位置を確認している。後でシュンと転移するから楽である。


 *


 朝食を済ませた私達は未確認生物創造博物館へとパッと転移してその外観にあっ!!となった!!


「や、やだ何これ凄い!!」


「え…ええ…私も初めて見ました…」

 ゴクリと私達は建物の外観を見た。

 建物の外観は丸だった。完全な球体で下には入り口がある。


「これは…凄いわね…どうやってこんな球体の建物を作ったのかしら?不思議ね。ノアさん!早く入りたいわ!」

 と私は急かした。


「ええ、行きましょう」

 と中に入ると変な生き物が出迎えた!

 全身ツルリとしていて毛のない頭が大きく目は虫みたいに大きい。なんの生き物よ!?説明できない!!


「いらっしゃいませ…当博物館へようこそ!お金は1人銅貨3枚です」

 とそいつが言い、ノアさんは謎の生き物の格好をした人に渡した。


「ここどういう博物館なんですか?」

 と聞くと


「そのままでございますよ。私が子供の頃から創造して造った未確認生物達の模型や絵画を飾っています。妄想の産物ですな」

 と言った。

 この人…ここの館長なのかな?人少ないし…。変人と思われてるんだわ…。しかし、この人の妄想物は明らかに常軌を逸している発想だと思った。


 私達は順路の矢印に沿って廻ることにした。人が少ないからスカスカであった。


「なんか…大丈夫なんでしょうか?ここ?」

 とノアさんは心配したが私はどんなモノがあるのか興味を持っていたから


「とにかく進みましょう!」

 と順路を進むと最初にあの変な格好をした館長と同じようなのが数匹?集まって手を繋いで火の周りを踊っている珍妙な絵画が飾られていた!!しかも展示なのに値段が横にあり高い!金貨5枚!


「これは…【グレイ達の歓喜の舞】と書かれています…。この生物グレイと言うんですね…」

 脱力しながらノアさんは説明文を読んだ。

 なるほど…あれの名前が判ったわ。


 順路を進むと今度は真丸の球体を持つグレイがいた…。模型人形だ。この下にも値段金貨1枚とある。一体誰が買うんだろうか?


 更に進むと卵が割れて中からおたまじゃくしみたいな生物が誕生している。それから進化の過程が描かれた図があった。

 おたまじゃくしから蛇みたいになりそこからにゃるりと手足が生えてトカゲになりトカゲは2足歩行を初めて最終的に尻尾が引っ込み頭がデカくなりグレイになっていた。


 待って!?2足歩行トカゲからのグレイへの進化が意味不明だった!!いきなりグレイ化!後、カエルに進化と思わせといてトカゲ!!

 こ、これは実にくだらなく面白い…。

 ノアさんは…


「ばかな…」

 と呆れて呟いていた。


 更に順路を進むと彼らがウサギを捕らえている姿が描かれている絵とその横に腹を捌いてモザイクをかけた絵…調理して食うのか?と思いきや何とグレイ達はキラキラと光る石をウサギの胎内へと入れた絵。その横には何故か生き還り元気に跳ねるウサギ。横にウサギの額に石が生えてくる絵。4枚セットで金貨4枚!!と値段有り。


「あれ?これ…魔物じゃないですかね?石ウサギって言う…ほら森によくいる小型の魔物です。創造してこじ付けて描いたんですね…」

 とノアさんが言う。確かに石ウサギは森でよく見るウサギの魔物である。お肉はウサギと良く似ているからもうほぼウサギの進化版だ。


 更に進むと今度は牛を捕まえるグレイ達。これにも石を埋め込み、牛は角が鋭利に生えて身体が筋肉質になり目は赤く光り、2足歩行して武器を手にした。…ってこれ魔物のミノタウロスだわ!!?


「さっきから思ってましたが…。この石…魔石でしょうか?魔物を倒すと額やお腹から魔石が取れることが多いです」


「やあねぇ、全部創造でしょ?これらは!」

 と笑う。魔石らしき石の値段も書かれていたが額が凄いことになっていた。

 金貨50枚!!

 通常の魔石の市場取引価格は銀貨1枚くらいだ。魔石は魔物から採取して魔道具の材料に使われたりする。


「「………………」」

 ここにあるの誰が買うんだろう!!?



 しかし次の順路に進んだ瞬間私達は固まった!!


「なっ!!」


 ノアさんは信じられないと言う目でそれを見た。私もだ。


 次の絵はなんと人間の中に魔石を入れていた。それから魔石は人間の胎内で解けて人が魔力を帯びる様子を描いた絵。次にその魔力を放出し魔物を倒したりする魔力持ちの様子が描かれていた…。


 唖然とする私達。


「いや、創造ですから…」


「ええ…判ってるわ…そういう博物館なんだから」

 全部嘘で創造の産物と割り切ってないとダメよね…。

 結局のところ未確認生物が魔物を作り出したり私達人間に魔力を与えてるという歴史創作なだけだ。

 未確認生物もグレイしか出てこないし!


 さらに数体のグレイの彫刻がいろいろなポーズでズラリと並べられているものがあり、なんとも言えない奇妙な光景だった。


 私達は一体何を見せられているんだ!?

 そんな気持ちになりつつも、とうとう順路は終わり…またあの館長が出迎え


「ありがとうございましたー!!あちらにお土産コーナーがありますんでどうぞー!」

 と案内された。


 もはやグレイのミニサイズの彫刻人形などでいっぱいだった。

 グレイのオルゴールとかもはや誰徳なんだろう?曲もなんか変な音で癒されない微妙なヤツだ。

【これを着たら貴方もグレイに!】というグレイの…さっきの館長が着ていたようなツルツルした銀の服もあった。


「あ…」

 ペット用の首輪にグレイの顔が中央に着いた変な首輪が売ってる…。銅貨2枚。

 私はそれをミラのお土産にした。


「お嬢様…流石にミラちゃんが怒るんじゃ!?」

 と心配したが


「大丈夫よ!!変わってていいじゃない!」

 とそれを買った…。


 なんか何とも言えない気持ちで博物館を出た。

 きっと他の客達も何とも言えない気持ちだろうと辺りを見渡すと館長に怒鳴り


「このインチキ博物館め!金返せ!!」

 とキレてる人がいた。


「……………」


 中には変わり者もいて、


「とても楽しかったよ!ありがとう!」

 とお礼を言う人もいた。人それぞれってことね。


 側のお店でランチを取ることにして2人で感想を言い合っていたら、店員さんが


「あんたら…あのぼったくり博物館に行ってきた人達か…あの館長数年前に光る球体に拐われてひと月後に戻ってきたという妄想を騙り、狂ったようにあの博物館を作り始めたんだ…。この国は博物館が多いからね、一つくらい変わり種があってもと領主様が承諾してなんと話しが通ったんだよ…。まあ、話のネタにはいいかもしれないがね」


 と料理を置いて去った。

 ウサギのミートパイが置いてあった…。


「……この中に魔石が入ってたら面白いのにね」


「お嬢様も十分面白いですよね」

 とノアさんは疲れたように笑った。


 午後からはノアさんの職場の人達のお土産を探し回り適当でいいと言うノアさんだが、私も付き合って選んだ。もちろん自分のものも。

 全部ノアさんが出したけどね!!


 *

 夕方本日の宿を探して回った…。

 ていうか最終日だし…。き、今日こそは…ノアさんにきちんと養ってくださいとか言わなきゃ!匿うとかじゃなくて…。私結局のところ人は殺してないし…。


 そ、それには同じ部屋にしないと!!


 ノアさんは宿屋の主人に


「部屋は空いてますか?二つ」

 と聞いた。主人は


「ああ、この辺は寂れてるからいくらでも空いとるよ!」


「良かった!それではふた…」


「一つでお願いするわ!!」

 と私は言った。ノアさんがまた驚いた。


「お嬢様!?」


「ああ、いいよ。うちはそう言うところ気にしないよ。あんたらゆっくりイチャイチャしな!」

 と鍵を投げられた。

 ノアさんは唖然として、


「おっ!お嬢様!!部屋は沢山余っているのにな、何故!?」

 と慌てて赤くなる。


「お、お話があるのよ!!」


「お話ならそれはそれで聞きますのに何故一緒に!?」


「あ、あら?嫌ならいいのよノアさん!旅行も最後だし…別に…」

 と拗ねるとノアさんは口を抑えて赤くなり


「い、嫌なわけないです…」


「もしかしたらグレイが私を拐いに来るかもしれないじゃない!?」


「プッ…そ、それは困りますね…」

 と少し笑いながら私の荷物を持ちお部屋に入った。

 心臓が早鐘にみたいに脈打つ。

 ノアさんも同様のようでいた。

 ベッドは一つにソファーが一つ。お風呂やトイレも付いている。まぁ普通の宿屋だ。窓にはカーテンは付いていない。この国はカーテンがないのか。プライバシーは?とか思ったが特に夜出歩く人を見かけない閑散とした場所だ。


「ゆ、夕食を食べに行きましょうか…」


「そ、そうね!!お腹空いたわ!!」

 と私達は荷物を置いて食堂へ行く。

 ガラガラだ。寂れてるとは本当なのか。


 ウエイトレスの主人の奥さんが


「まぁ…この辺昔から人攫いが多かったんだよ…」


「え…本当に?物騒ですね…。それともグレイ本当にいるとか?」


「いやグレイは知らんけど…だからあんまり人気ないけど静かでいいとかで時々来るあんたらみたいな物好きな恋人もいるんだよ、ひひ」

 と笑い料理を置いて奥さんは去る。


 私達はぎこちなく食事を運ぶ。最初の日みたいだ。ええと、私はこの後可愛い下着をつけて養ってくれるように…。ってきゃー!!

 と1人で妄想し赤くなる。


 ノアさんもなんか普段飲まないワインを水みたいにガブガブ飲んでいた。途中で


「はっ!これ…水じゃない!」

 と言っている。当たり前でしょ!


「わ、私も貰うわ!」

 と私もちびちびと飲んだ。


 それから食事を終えるとノアさんはこの部屋にあったソファーを自分のベッド代わりにしようとしていた。

 なんでこの宿にはソファーがあるのよ!!


「そう言えばお話とは何でしょうか?」

 とノアさんが聞き、ドキリとする。

 私は向かいの1人がけの椅子に座ると


「ノアさん…私とこれまで一緒にいてくれてありがとう…貴方はずっと小さい頃から私を助けてくれたし…想ってもいてくれて…とても嬉しいわ。お礼を言うわ。拐われたけど」

 と話始めた。


「そんな…私の捨てた形見をあっさり拾ってきてくれたのです。好きになったのも私の自由ですし、その後婚約騒ぎに乗じてつい拐って隠してしまいましたし…。お嬢様との日々とても…とても楽しかったです!!」

 と泣きそうになる。


「ちょっと、何でそんな顔するのよ!?辞めてよそんな別れるみたいな!」


「は?てっきり別れ話かと…。お嬢様は家に帰られて私は逮捕され…もう会うこともないと…」

 と言うから私は呆れる。


「何でよ!?ノアさんて私のこともう好きじゃないの?私のこと何だと思ってるのよ!?もしかしてグレイと思ってるの!?」


「何でそこでグレイなんですか!?お嬢様!そんなの…私如きが失礼ですが……愛してるに決まってます!出来れば一生離したくないです!一生閉じ込めて私とお嬢様とミラちゃんと仲良く暮らしたいです!…でも私はお嬢様の自由を奪っているから…」


 私はスクッと立ち上がりノアさんの前に行き頰をパチンと叩いた。


「お嬢様!?」


「私のことはヴィオラと呼んで!!もうお嬢様じゃないから!!私を貴方の妻にして!!いっ一生閉じ込めて置いてもいいわ!一生愛して!!」

 と赤くなり叫ぶとノアさんは私の手を掴み引き寄せて抱きしめた。

 耳元で


「これは夢ですか?」

 と囁かれ


「なら殴って目を覚まさせましょうか?」


「え!?そんなご褒美を!?」


「やっぱり変態ね…」

 と私はノアさんの胸にもたれかかる。

 髪を撫でられたから私は魔力を解いて元の黒髪と翡翠の瞳に戻した。


「変態は…お嫌いでしょうか?」

 と囁かれる。


「変態は嫌いだけどノアさんは好きなの…」


「…お…いえ…ヴィオラ様…本当に!?」

 と目が合う。


「私を閉じ込めて惚れされたくせに…ずるいわ。私の言っていることが信じられない?」


「いいえ…全部信じます…デザートを頂いてもよろしいですか?ヴィオラ様」

 と蒼い瞳が嬉しそうに揺れてトンと唇に指が置かれた。


「ええ…きょ…今日はそこだけじゃなくて全部いいわ…あっ!でも、待って!?」


「どうしましたか?」


「そ、その…ちょっと可愛い下着を着るの忘れたからちょっと着てくる…んっ」

 ノアさんはそれをさせてくれずに唇を急いで塞いだ…。


 可愛い下着が無駄になったじゃない、恋愛マスター。

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