エスケープ

 受験生だけは、土曜も午前は授業がある。


 そんな憂鬱な朝のホームルーム前の教室。


 眼鏡と髪を下ろした彼女は誰もが目を引かれた。


 人の波が瞬く間に彼女を包み、遠くへと追いやっていく。


 呆然とそれを見ていた。


 恐らく彼女は困っているだろう。


 助けるべきなのは分かっている。


 友達だからだ。


 しかし、ただの友達なんだ。


 ここで彼女を助ける事がどういう結果になるか。


 思考もままならない内に身体は勝手に動き出していた。


 見えた一瞬の表情。


 気付くと互いに手を伸ばしていた。


 指先が絡み、彼女の手を強く握る。


 温かいなと思った。


 腕を引っ張り、抱き寄せる様にして人の波から彼女を引き寄せる。


 そのまま教室の外に飛び出して、2人で学校を駆け出した。

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