その他

しおん

 長い間電車に揺られていた。


 ドアの近くでずっと立っている。


 目の前の妹は疲れたのかすやすや眠っていた。


 父さんも母さんも立っているのは平気みたい。


 本を捲る手は止まらないし、一向に音楽プレイヤーを操作する気はなさそうだ。


 アナウンスが流れる。


 次が降りる駅だ。


 父さんが優しく妹の肩を揺する。


 口に手をあてながら大欠伸をした妹は、腕で涙を拭おうとする。


 私はそれを止めてハンカチでそっと拭いた。


 眠そうな妹の手を引いて2人に付いていく。


 懐かしい風が鼻をくすぐった。


 胸の奥に仕舞い込んでいた想いが、ついに溢れだした。



 ここには数年前まで住んでいた。


 たった数年でも子供と大人では時間の感覚は違う。


 生まれて初めてこねた駄々だだだった。


 ここに戻りたいって小さい子みたいにわめいた。


 あの子がここに居るから。


 私を励まし、私を応援し、私を救ってくれた。


 いつまでも忘れられない、遠くても諦めることは出来ない恋。


 大丈夫、声は出る。


 鼻歌が辺りに響いた。

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