道具袋に転生したんだが神さまに文句を言いたい‼

モモん

第1話、道具袋ってナニ、レベル必要あるの?

ねえ、神様・・・

俺、なんか悪いことしちゃった?

3本だけ残っていた髪の2本をむしっちゃったとか・・・ハズい写真をばらまいちゃったとかさ・・・


心の底からゴメンナサイしますから、この”職業:道具袋”って何とかしてくれませんか?

視界の左隅に表示されているのだ。


ラノベでありがちな「異世界転生」とかいうヤツだと思う。

自転車で坂道を下ってたんだけど、一時停止せずに突っ込んできた車に跳ね飛ばされたところで記憶は途切れている。

あれで死んでなかったら逆に凄いと思う。俺ってヒーローじゃんの世界だ。

だが、現実は違ったようだ。


問題は、こうして意識がありながら手も足も出ないってことだ。

この状況はどうすれば変えられるのか。寿命は…あってほしい。


さて、毎日こうしてるのも芸がない。

考えろ俺、…!

ステータス!心の中で念じてみた。


********************

名前:綿の道具袋

職業:道具袋

LV:1

材質:綿100%

HP:10

MP:1

スキル:物理的収納

形状:ひも付き

魔法:なし

特技:思考


********************


自分でやっておいてなんだけど、道具袋のステータスって。

HP?MPあっても、使える魔法がないじゃん。

物理的収納って、そりゃあ袋だからさぁ。なんか入れられるでしょ、ふつう。


しっかしなぁ、視界はあっても、真っ暗って意味ないでしょ。

目なんてないんだからさ。

まあ、道具袋に目があったら気持ち悪いよな…


おっ、なんか明るくなった。


「どれどれ、ほつれとかはないな」


裏返され、縫い目を確認しているみたいだ。

あっ、ひっぱられた。ダメ、そこ敏感なの…縫い目のところ…


元に戻されたようで、また暗くなった。ただ上の方から少し光を感じる。

箱から出されたのかな。

ということは、俺の視界は袋の内側ってことか。


「厚い綿で丈夫そうだな、これなら職人とかに売れるだろう。

並べておいてくれ」


「はい」


店主と売り子ってところか。


背中を触られて、伸ばされる感じ。店先に並べられたようだ。

パサッパサッと上に載せられる感じは、重ねられているんだろう。



ああ、暇だな。

カラン おっ、客かな。


「いらっしゃいませ…」


「おっ、アミちゃん、今日も店番かい。何か新しいの入った?」


「あ、アキラさんですね。

右側の中段の棚に、綿の道具袋が入りましたよ。丈夫そうな感じです」


「おお、これか。30cmの25cmってところか。まあ、銅貨1枚なら道具入れにいいかな。

よし、もらおう。はい銅貨1枚」


「ありがとうございます」


カラン


俺の上のやつが買われたようだ。

店員のアミちゃん。可愛い声してんじゃねえか。


カラン


「いらっしゃいませ…」


「石鹸が欲しいんだが」


左の中段の棚、道路側のところに置いてあります。


「おお、あったあった。銅貨1枚だな。はいよ」


「ありがとうございました」


カラン


なんか変だぞ。

アミちゃん歩けないのか?

いや、陳列の時は歩いてたよな。

ゆっくりだったけど。


カラン


「アミちゃん、鍋はなおったかな」


「あ、店長を呼びますからお待ち下さい」


チンチン


「おう、婆さんか、今修理終わったところだ。

ちょっと待ってくれ」


「ほれ、底の穴は塞いでおいたぜ、銅貨2枚だ」


「はいよ。ありがとね」


カラン


奥からトンカン聞こえてたのは鍋の修理か。


カラン


「いらっしゃいませ…」


「…」


カサカサ


「あの、代金を…」


「チッ、見えねえくせに…ほらよ」


チャリンチャリン


カラン


サッ…サッ…  


「たぶん、このへんに」


ペタペタ ペタペタ


「あった」


アミちゃん見えないのかよ。

しっかし、ひでえヤツがいるんもんだな。




「時間だ、今日もありがとうな。

今日の手当だ」


「はい、ありがとうございます」


カラン


ガチャ


「目さえ見えれば、人形のように可愛いんだから、働き口なんざいくらでもあるんだろうがな」


俺は、まだ売れていない。


閉店かよ。

一人で過ごす夜は寂しすぎるぜ…

そうだ!魔力はあるんだよな、よく魔力を練るとか聞くけど、できるかな…

魔力ぅ、どこだー…


ポッ


おっ、これかな。なんか赤い人魂みてえだな。

練るっていっても、チャクラとか無さそうだしな…

おにぎりみたいにねて…ポン…って、消えちゃったよ。


もっと優しくしないとダメかな。



おっ、また出てきたな。よーしよーし、ネコを撫でるみたいに…ポン、消えちゃったよ。


一晩中、こんなことをしてました。

眠れないし…


トントントン ガチャ カラン


「ふぁー、おはよう」


「店長さん、おはようございます。

今日も一日、よろしくお願いいたします」


「ああ、がんばってな」


この日、道具袋は売れなかった。

夜になって、魔法の人魂をなで回していたら、一回り大きくなった。


チャラリラリン♪


おっ、レベルアップ来たか!


ステータス!


********************

名前:売れ残った綿の道具袋

職業:道具袋

LV:2

材質:綿100%

HP:13

MP:2

スキル:物理的収納

形状:ひも付き

魔法:なし

特技:思考


********************


何だよ「売れ残った綿の道具袋」って。

HPが増えると耐久性があがるのか?

もしかして…、神さまよう、この名前を見せつけるために、レベルアップさせたんじゃねえのか。

売れ残ったって文字は、ナニゲに心を削ってくれるよな…


はあ、だけどよ、こうやって、なで回してると、愛着がわいてくるよな。

よし、お前に名前をやろう「ポチ」だ。

うん、早く大きくなるんだぞ。


三日目、四日目が過ぎましたが、相変わらず俺は売れてない。


チャラリラリン♪


おっ、レベルアップ来たか!つっても、あんまり嬉しくないのは何故だ。


ステータス!


********************

名前:買い手のつかない綿の道具袋

職業:道具袋

LV:3

材質:綿100%

HP:15

MP:4

スキル:物理的収納

形状:ひも付き

魔法:なし

特技:思考

    魔力の飼い主

従魔力:ポチ


********************


おいおい、豆腐のメンタルを削ってくるじゃねえか。

四日程度でそれはねえだろうっての。

そんで、魔力の飼い主ってなに?

従魔力:ポチってのは、お前の事だよな。うん?そういえばイヌっぽくなってきたような…気のせいだ。


五日目、俺はついに手にとって貰えた。

いて、引っ張るなよ…


「延びないのか、ちょっと小さいんだよな…」


パサッ


「また来る」 カラン


いや、泣いてないよ。乱暴なヤツに買われなくて良かったよ。


チャラリラリン♪


おい、レベルアップに繋がるような事してねえよ。

これって、絶対名前がらみだよな。

見ねえって、見ませんよ…、ぜってえ見ねえって…


ステータス!


********************

名前:振られた!いまだ買い手のつかない綿の道具袋

職業:道具袋

LV:4

材質:綿100%

HP:18

MP:6

スキル:物理的収納

形状:ひも付き

魔法:なし

特技:思考

    魔力の飼い主

従魔力:ポチ


********************


振られてねえよ、何びっくりマーク付けてんの…

なあ、神さま、俺ホントに何かやったのか?

空の上で笑ってんだろ。

あー、買ってもらえねえのとか笑ってんだろ。

いいんだいいんだ、俺にはポチがいるんだから…


あれっ、ポチ…、赤い色が薄くなってんぞ…

おい、ポチ!消えるな!俺を一人にしないでくれ!


スー 

ポチ…ポチー! 俺は泣いた…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る