前世で美少女4人を殺したものの老人を1人助けた男が、女しかいない国に召喚された
@himeru
改革の準備
第1話 前世の目覚め
「ばあや、アイラはどこへ行ったの?」
ばあやは顔中のしわというしわをほっぺに集め、苦虫を嚙み潰したように答える。
「カエデや、あの子は仕事へ行ったんだよ。もう何年も、帰ってはこないかもしれない」
カエデと呼ばれた6歳の少年は純粋無垢で、その事実を疑うことなく受け止めた。彼にはまだ、前世の記憶はない。
アイラがいなくなった翌日、ライラという女性が代わりにカエデの遊び相手となった。おいかけっこや、かくれんぼ、読んだ絵本について楽しくお話したりする。とにかくカエデを、この国で唯一の男の子を大切に育てなければならない。それが国中の人間の総意であった。そのためばあや、名をシガラという、も本当の祖母ではない。
最初はライラとの関係もぎこちなかったが、ひと月もすれば仲良くなっていた。それでも6年間ずっと一緒だったアイラのことは、忘れられない。
それから1年が経った。ライラとカエデの関係は良好だった。だからこそカエデには、彼女がいなくなってしまうのではないかと不安であった。しかし予想外にも、いなくなったのはばあやであった。
「ばあや、ねえばあや!!」
叫んでも、起き上がるはずもない。彼女は死んでしまったのだ。
「いい子でいるんだよ」そう言って外の国へ仕事へ行った。それが最後の会話であった。帰って来たシガラの姿は、見るも無残に傷ついていた。刃物で切られたような切り傷に、馬にでも蹴られたかのようなあざ。彼女は輸入の荷物に紛れて、まるで物として運ばれてきた。
カエデはただ泣きじゃくった。シガラのそばを離れようとはせず、その場で両手をついて泣いていた。手には、彼女の冷えた血がついていた。
それからしばらくして、涙が枯れた。ようやく立ち上がり、涙を右手で拭った。初めて自分の手に血がついていることに気が付いた。彼は初めて血を見た。だが、初めてではないような心地がした。そうして自分が恐ろしくなり、辺りを見回すと、美女ばかり。それはいつもの光景であるはずだ。だが、"美女"という言葉を想起したのは初めてであった。当然だ。彼にとっては当たり前、美女ではない人間を見たことがないのだ。比較しようもない。
瞬間である。
声や表情に出るということはない。それらはまるで絵の具を混ぜるくらい自然に融合した。その色は、思いの外、綺麗であった。カエデは、前世の記憶を受け入れた。人格は混ざり、それは前世の人格でもありカエデの人格でもあった。
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