守護者の人生相談所

@intero

プロローグ

 はぁ。なんでこんな時代に生まれて来たんだろ。


 社会は非常に生きづらい世の中である。上司に右を向けと言われたら有無を言わずに右を向く。そこに理由なんて求めてはいけない。常に他人とあわせていかなければならない。相手の顔色を伺わなければならない。何も出来ないものは容赦なく『現代社会』という枠組みから蹴落とされ、秀でた者も蹴落とされる。平均を維持しなければならない。今日の友は明日の敵、誰がいつ裏切るか見定めて一歩引いた関係を築かなければならない。

 大学は将来も見ないリア充の集まりである。親のお金で社会人の夏休みを謳歌し、顔がいい美男美女は彼氏、彼女をとっかえひっかえ。勉強をする者もいるがそれは一部であって、大抵のやつらは夜中からウェイウェイ騒ぐような奴らばかりだ。陰キャであるものは相手にされるどころか煙たがられ、肩身狭く活動することになる。

 こんな社会で生きるくらいなら、親のすねをかじってニート決め込む方が多くの人を傷つけず一生を過ごすことが出来るんじゃないだろうか。そんな事を思いながら俺、早川 忍(はやかわ しのぶ)はふけっていた。高校2年生になった俺はある選択に悩まされていた。

「で。どうするか決まったか?」

「近いって。あやちゃん。」

「誰があやちゃんだゴルァ。刺すぞ」

「調子に乗りました。さーせん。」

 俺は担任の鈴川 綾 (すずかわ あや)に脅されていた。相変わらず怖え〜。まるで獲物を狩る肉食動物だ。

「お前が将来に対して消極的な理由も分かるが、いずれ向き合わなければならないんだぞ。3年生になったら進路に合わせて忙しくなるんだから早いうちに決めたほうがいいぞ。」




「って言われてもなぁ。」

 少し風にでもあたるか。そう思った俺は進路相談室を抜け出し学校の屋上へと足を進めた。あそこの景色は最高だ。めったに人の出入りもなく、まるで現実から抜け出したかのような気分にさせてくれる。まあ、実際立ち入っていい場所なのかは分からないが恐らく禁止なのだろう。

 いつも通りドアを開けると屋上には一人の少女がいた。

 あの制服の見た目からしておそらく俺と同じとしだろう。この場所に人がいるのは入学以来初めてのことだ。俺だけしか知らない秘密の場所だと思っていたが他にも使っている奴がいたとは。

 俺は見知らぬ人と屋上で2人きりになれるほど、肝の据わった男ではない。

 ここはあきらめてほかの場所でも探すか。そう思いその場を後にしようとした時、少女は屋上の鉄格子に足をかけ格子の向こう側に立った。

 おいおい!やべえってレベルじゃねえぞ。俺はとっさに彼女に声をかけた。

「あのぉ~。なにしてるんですか?」

 久々に同年代の女の子に声をかけたせいなのか、今の現状がそうさせているのかは俺にはわからなかったが俺の声は震えていた。

「見てわからないの。私今からここから飛び降りようと思っているの。」

「俺たちまだまだ人生これからじゃないですか。早まるのはやめましょうよ。」

「もうすべてが終わってるみたいな顔をしたあんたには言われたくないセリフね。放っておいてくれるかしら。」

「こっちは勇気を出して助けてあげようと話しかけているのに俺のことディスりやがって!確かに生まれてこの方彼女なんてできたことはないが、俺だってお前に言われる筋もねえよ!」

「それを余計なお世話っていうのよ。」

 そういうと彼女は背中から倒れこむように重心を移した。

「どうにでもなりやがれぇぇ!」

 そういうと俺は彼女の手をつかんだが、今まで運動してなかったこともありそのまま引き上げられず彼女と共に宙に体を投げた。

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