現在、交錯する

 初めて明里を部屋に招待した時は、事前に狭い1Kを必死で片付けて、緊張しながら招き入れた。

 何回か数を重ねるうちに雑な部分を見せてしまうようになったが、明里はふふ、と笑って栞らしいねと言ってくれた。

 泊まることも多くなり、明里の部屋着や化粧品が増えていった。仲が深まっている証のようで、嬉しかった。

 週末に朝まで映画やドラマやアニメを観て、互いにすっぴんで泣いたり笑ったり寝落ちしたりするのは最高だった。


 今日、意を決して明里に絵を見せた。

 生まれて初めて、自分の意思で描いたものだった。長く迷い抜いて、やっと完成したものだった。

 恐る恐るキャンバスに被せていた布を取る。

「明里が絵を描いてるって聞いて、真似したわけじゃないんだけど…私もやってみたいなって思って。全然、下手なんだけど、一応、頑張ってみたの…。」

 明里は、黙って絵を見つめている。一言も話さない。さっきまではいつものようにニコニコと「見せたいものって何?」なんて聞いてきたのに。

 沈黙が続き、栞は段々と怖くなってきた。

 いつも自分の話を肯定してくれる明里に、甘え過ぎてしまったのではないか。内心、ウンザリしていたのかもしれない。

 その上こんな素人の駄作を見せられて、失望されてしまったのだろうか。

 そう思うと、冷水を浴びせられたように震えてきた。

 謝るべきか迷っていると、声が聞こえてきた。

 いつの間にか、明里が肩を震わせて泣いていた。

 そしてとうとう、明里は大きくしゃくり上げてうずくまった。

「明里!?」

 わけがわからず、栞も泣きたくなってきた。

 明里は何も言わない。

 おろおろしていると、泣きながら抱き締められた。強く。

 栞は、よくわからないまま明里の背中を撫でた。明里の柔らかく長い髪から、甘い香りがしてくらくらした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る