小春日和に桃は咲く-狂い咲く想いへ-
鬼倉みのり
手紙
桃香へ
お元気ですか?
……と言うのはおかしな話ですが、手紙としてはしっくりこないのでどうか許してください。
こちらは今、桜が見頃な時期となりました。
郷は壊滅的ですが、本部の桜は見事に咲いています。
ふと、風に乗って飛んでくる花びらに君の笑顔を思い出してしまいます。
君といた季節を思い出します。
春に桃の木の下で出会ったこと、梅雨に紫陽花を見に行ったこと、夏に一緒に朝顔を育てたこと、秋に紅葉狩りをしたこと、冬に
たくさんの思い出がいまでも鮮明に思い出せます。
君のいない風景に寂しさが募ります。
本当に君には申し訳ないことをしました。
悔やんでも悔やみきれません。
君が『最近何だか妙だ』と不穏を感じていたことがありましたね。
あの時に、僕がもっと真剣に話を聞いていたらこんな事態にはならなかったでしょうか。それに、お守りとして渡した柳の腕輪もあまり効果がなかったように感じます。
やはり迷信というものは気休めなのでしょうか。
……そういえば、君の妹に会いました。
出会った当初は、散々泣かれて怒られて、殺されそうにもなりました。
ですが、今では君の話をしながらお茶をする仲になりました。
君に似て気が強くて、芯のある子ですね。
君が封印されてから、あの子を一人にさせてしまうと心配していたのですが、最近ではいつも言霊師の頭領と一緒にいて、仲の良さを見せ付けられます。
心許せる相手を見つけてくれたようでとても安心しました。
正直、僕ももう長くないと感じています。
時期には早い、君の好きだった藤の花が鮮明に色づき僕を呼んでる気がします。
埋もれて沈んでいけたら、もう一度君に出会えるでしょうか?
もう一度、君とやり直せるでしょうか?
君を殺めた僕を、君は許してくれるでしょうか?
『してはならない恋』
いつだったか、君は寂しそうに笑ってそんな話をしていましたね。
その時はよくわかっていませんでしたが、今は少しわかったような気がします。
僕は君が大好きです。
君はきっと僕を憎んでいるでしょう。
忘れているかも知れませんね。
でも、待てるだけ待ってみようと思います。
僕の片割れでもある柳の木に、気休めですがこの想いと力を託します。
この想いが届くことを祈って、藤の花と共に眠りにつきたいと思います。
それでは、また
柳瀬 樹貴
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