ギスギスした勇者パーティーを追放されたので、辺境でスローライフを始めたら人類最強の英雄が追いかけてきた件

カボチャマスク

序章

第1話 追放して、追放され

「このパーティーにお前のような役立たずの存在価値はない。即刻荷物をまとめてここから出ていけッ!!」


 言いたいことが言えたからなのか、勇者パーティーの一員でもある騎士ゴートは満足そうな笑みを浮かべながら俺を見下ろす。

 王都西部にある大湿原を根城にしていた巨大ヒドラを倒し、ようやく一息つけると借りている宿屋で安堵していた呪術師セブルスは突然ゴートに呼びつけられ唐突に追放宣告を出された。


「……それがこのパーティーの、"皆の総意"なのか?」


「お前は栄えある勇者パーティの一員であるにも関わらず小賢しい戦法ばかり使う。その癖に俺や勇者殿のような剣や槍の才能もなく、聖女様のような強力な回復魔法も使えない無能者に居場所などない! 何よりお前が使えるのは役立たずな無能スキル《呪術》だけではないか。こんな無能者を食わしていく余裕は我々にはないんだよ!」


 無茶苦茶過ぎる言い分だな。勇者や騎士のような近接戦闘が出来て、伝承に出てくる聖女のように数多の魔法を駆使し、さらに常に正々堂々と戦う何て超人でもなければ不可能だ。

 こんなのは「吸血鬼がどうか確かめるためにその人間の心臓に杭を打つ」と何も変わらない。ようは結論ありきの理由付けだ。


「もう一度聞く。それがこのパーティーの――ラウラの考えなのか?」


「……ッ! 何にしてもお前の追放は陛下や教会も認めている。即刻荷物をたたんで出ていけ」


 ゴートは話し合いに応じようとしない。というより見たくないものから目を背けているだけな気もするが。しかしゴートとこれ以上押し問答したところで俺の追放宣告が消えることはないのは事実だ。ラウラの旅にも悪影響が出ることを考えるとここは一旦大人しく引いておいた方がいいかもしれない。


 そう思って荷物を取るため自室へ向かおうとしたのだが、ゴートとのすれ違い様。


「あいつさえいなければ勇者殿は俺の物になっていたんだ」


 と、小さな声が聞こえてきた。

 なるほど。俺を追放したい一番の理由は色恋沙汰というわけか。そう考えると国王や教会が追放に同意したことにも理由がつく。

 まずゴートがラウラに惚れているというのはパーティ内(当のラウラを除いて)では周知の事実だ。が、ゴートが彼女が求めるのはそれだけではないだろう。

 勇者の夫になれば絶大な権力と富が約束される。もしラウラと結ばれれば中級貴族の出であるゴートでも大臣の地位を容易く手に入れられるだろう。

 恐らく国王や教会も同じことを考えているはずだ。国王はラウラを王子に嫁がせて諸外国に対して優位に立ち回りたいのだろうし、聖教としても勇者を抑えることで影響力を拡大させたいのだろう。



 突然の追放宣告に罵倒の嵐等で少しイラっとはしたけど、ぶっちゃけた話”パーティーを抜ける”というだけならそう悪い話でもない。

 勇者の下で勇を振るえば経歴に箔がつくと考えた貴族のお坊ちゃまや利権目当てな坊主の子供らが加入してから、このパーティーの空気は悪くなっていった。庶民というだけで馬鹿にされたり雑用も押し付けらたりしたしかなりウンザリしていたのは事実だ。


 俺に似合っているのは人目につかない裏方だというのもよく分かったし、これからはそうやって彼女を支えることにしよう。


 

 荷物を纏め終えた俺は足取り軽く長距離馬車を求めて街へと駆け出す。

 目的地は特になし。とりあえずあの貴族や国王の目が届かない所で何か事業を起こしてみよう。


 あー、神経質になって気を配らなくていいというのはこんなにも素晴らしいことなのか。


―――――



 その日、ゴートは久々に気持ちの良い朝を迎えていた。何せあれほど憎たらしかった庶民をようやく追放することができたのだ。これで気分がよくならない訳がない。


「その顔を見るに上手くやったようだな」


 拠点として借り上げられた宿屋の大広間、そこにはラウラとシーフの少女を除く勇者パーティーの面々が集まっていた。今この場にいる全員は名家に生まれ勇者を自分のものにしようと考えているライバルなわけだが”セブルスを追い出す”に置いて彼らは共闘関係にある。


「俺が失敗するわけないだろう? あの貧乏くさい庶民を惨めったらしく追い出してやったわ!」


 セブルスがこのパーティーを去った以上、ラウラは自分たちが持つ金や権力に目がくらみ籠絡されるはずだ。そんなことを考えながらゴートたちは朝っぱらから勝利の美酒に酔う。


「おはようございます。朝からお酒とは、何か良いことでもあったんですか?」


 そうして2本目の酒瓶を開けようとしたところで早朝からの鍛錬を終えた女勇者ラウラとシーフの少女レインが戻ってきた。


「おお、勇者殿! 我々は遂にあの忌々しい男を追い出し、貴殿を解放することに成功したのだ!」

「えっと、言っていることがよくわかないのですが……。追い出したというのはどういうことなのでしょうか?」


 困惑しているラウラに対してゴートは自慢げに自分が”一体何をしたのか”を話し出す。


「我々は遂にあのセブルスを追放したのです! もうあの貧乏くさい男に付きまとわれる必要はない。私が貴方に貴族でしか見られない光景を見せて差し上げましょう!」

「追い出したって、どうして!?」

「無論彼が無能者だったからですよ。あんなただ飯喰らいの役立たずは追放するに限るでしょう? そんなことよりここの近くに私の別荘があるのですが……」


 ゴートの抜け駆けにも捉えられる発言を聞いて、他のお坊ちゃまは焦りながらゴートに負けじとアピールの言葉を考え、そしてラウラに投げつける。しかしその内容は「自分はどれだけ金がある」とか、「自分はこれだけの地位を持っている」など自慢にしか聞こえないようなものばかり。

 そんな自己中心的な言動に苛立ちを覚えない者はそうはいないだろう。


「ッ! どうして貴方たちは……!」


 他人の事を全く考えない彼らの言動に掴み掛かりたい気持ちを何とか抑えると、ラウラは酷く無感情な声で貴族のお坊ちゃまたちに向けて喋り出す。


「……セブルスがいないなら私がこのパーティーにいる理由はありません。今まで大変お世話になりました!」


 そう言い放つとラウラは彼らの下を去っていく。慌ててゴートらは呼び止めようとするが……。


「なぜパーティーを抜ける!? このまま我らと共にいれば貴女は富と権力を手に入れられるのに!」

「……私が今一番求めているのは彼――セブルスとの穏やかな日常だけです。それでは」


 ラウラは呼び止めに一切応じず宿屋を出ていく。だったらと彼らは闇精霊の絶大な加護を受けたシーフの少女レインに狙いをつけるが、当の彼女はお坊ちゃまたちが話し始める直前に「にしし」と小悪魔的な笑みを浮かべ。


「あんたらの魂胆はお見通しだよ。ボクとしてもあの2人がいないこんなクズパーティーに用はないから。じゃあね」


 そうしてレインもまた軽やかな足取りで宿屋を出て行ってしまう。

 残されたゴートらはここで初めて自分たちの置かれた状況を理解する。


 ――本当の意味で追放されたのはセブルスではなく自分たちだということを。

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