第41話 戦争しないための個人戦争

「聞かせてもらおうか。なぜ、スピネイルの部下が、ミトリを狙う」


 テスラの言っていたことがドンピシャリ。まさか、本当に刺客が送られてくるとはな。警戒しておいて良かった。とはいえ、ここから慎重にことを進めないと、シルバンティアとクランバルジュが戦争になっちゃうからなぁ。


「スピネイルは関係ない。テスラにむかついていたから、俺が勝手にやっただけだ。使者としてわざわざやってきてやったのに、ぞんざいに扱われたんだ」


「自分の判断でやりました、か。政治家みたいなことを言うなよ。正直に言わないと大変なことになるぜ?」


「リーク様。黒ひげ危機一発でもなさいますか?」


 ククルが大量の剣を集めてくる。え? 身動きできないコイツを、そいつで順番に刺してくの? 何本目まで耐えられるかなってか? 一発目で死んじまうよ!


 血気盛んな男衆も、鼻息を荒くしながら言う。


「おい、リーク。ミトリ様とククルちゃんを連れて、少しの間向こうに行ってろ。俺たちが、こいつの口を割らせっから」


「いやいやいや、怖いことはやめようぜ!」


 冷静に諭すのだが、男衆は俺に顔を近づけて凄む。


「あ? もし、テスラ様に何かあったらどうするんだ? このタイミングで仕掛けてくるってことは、なにか企んでるに違いねえ」


 まずいな。俺としては、こいつになにかあっても後味が悪いんだが……。仕方がない。バニンガをちょっと脅すか。


「……おい、バニンガ。このままだと戦争になるぞ」


「理解力のないガキだな。スピネイルは関係ないと言ったろう。私怨で動いただけで、戦争が勃発するのか? は! チョロい連中だな」


「わかってないのはおまえだ、バニンガ。事実、チョロいんだよ。この町の連中はテスラ様が好きすぎるんだ。放っておいたら、今からでも武器を持ってクランバルジュに攻めてくぜ? それに、もし本当にテスラ様になにかあってみろ。その時は、俺も許さない。ラーズイッド家も黙っちゃいない」


「だから! スピネイルもクランバルジュも関係ないと言っているだろう! これは、俺が勝手にやったことだ! 戦争なんて馬鹿げている!


「馬鹿げていても、こいつらの感情は本物だ。マジで戦争になるぜ。私怨とか独断で動いたとか、責任とか関係ない。テスラのことが心配だから、いてもたってもいられない人間がいるんだよ。そりゃ、おまえもスピネイル様もテスラ様だって望んじゃいないけど、このままじゃ戦争になる。けど、俺なら止められる。なにか企んでいるのなら話せよ。正直に言えば、なにも起こらずに済む」


「お、おまえ如きに何が――」


「この町には、ちょうどいい図書館がある。……もし、テスラ様に何かあったら……俺の魔法で、アレをおまえの国に落とすぞ?」


「図書館を……ま、まさか……アレは……お、おまえが?」


 どうやら、理解したようだな。


「ん? あの図書館って、リークが運んできたのか?」「どうやって? 魔法で?」「いや、ハッタリを言ってるだけじゃないのか?」「リークって、そんなに凄え奴なの?」「俺は、テスラ様が引きずってきたって聞いたぞ?」「ククルさんが一晩でやってくれたんじゃないのか?」


 うん、そういえば、こいつらに説明してなかったっけ。


「む……ぐ……どうせ、言ったところでなにも変わらん」


「変わらないなら言ってもいいよな? はい、論破。聞かせてもらおうか」


 砂の拘束を解いてやる。そして、その砂を使って数多の剣を出現させ、それらでバニンガを包囲した。実力の差をまざまざと見せつけると、バニンガは、観念して胸の内を吐露する。


「スピネイルは……テスラを亡き者にするつもりだ」


「亡き者……って、殺すってことか? ふっざけんな! 冗談じゃねえぞぁぁあぁッ!」「殺せ! こいつは敵だ!」「もう許せん! クランバルジュだかスピネイルだかなんだか知らねえが、戦争だ!」


 さすがに、男衆も黙っていなかった。いきりたって、バニンガに殴りかかる。俺は、砂のバリケードをつくって、とりあえずバニンガを守ってやる。


「みんな、落ち着けよ」


「落ち着いてられっか! テスラ様を殺すって言ってんだぞ? この町を滅ぼすってのと同じなんだぞ!」


「いいから。――おい、バニンガ。亡き者にしようとしている……ってことは、まだ殺したわけじゃないんだな?」


「……たぶんな。いかにスピネイルでも、テスラが一筋縄ではいかないことぐらいわかっている。だから、人質を取るつもりだった。従えばそれで良し、そうでなければテスラ諸共殺すつもりだ」


 そう言って、バニンガはミトリの方を見る。


「けど、それなら大丈夫なんじゃないか? テスラ様が負けるとは思えないし、ミトリ様も無事だったんだし」「そう言われてみればそうか」「考えてみりゃ、スピネイル如き、テスラ様の敵じゃねえよなぁ」


 俺もそう思った。控えめに言ってもテスラは強い。殺そうと思って殺せるような人間じゃないと思うのだが。むしろ、スピネイルの方が心配だ。


「それはどうかな? テスラの豪傑ぶりも聞いてはいるが……スピネイルは、その比ではない」


「スピネイルは、そんなに強いのか?」


「――強いなんてものじゃない。あの方は……魔王にすらなりうる存在だ」


「魔王……?」


「おい、リークと言ったな。耳を貸せ」


 意味深に言ってきたので、俺はそっと耳を近づける。すると、バニンガがぼそりとつぶやいた。それを聞いた俺は戦慄する。俺やテスラは、自分よりも強い存在を知らない。けど、彼の言っていることが本当であれば、なるほどたしかにやばい――。


「……そういうことだ。いくらテスラとはいえ、スピネイルには適うまい」


「て、適当なことをほざいてんじゃねえ! テスラ様が負けるわけがねえだろうが! なあ、リーク!」


「ああ」と、とりあえず頷く。しかし、心配だ。俺が行った方がいいんじゃないか?


「こうなったら、やっぱりみんなで殴り込みにいこうじゃねえか! テスラ様を助けるんだ」「おお、そうだ! やろうぜ!」「うおおおおおぉぉぉッ!」


 再びヒートアップする男衆たち。この町の団結力なら、本当に今すぐにでも戦争を仕掛けてしまいそうだ。


「リークさん、私も行きます! お姉ちゃんが心配です」


 ミトリも乗り気のようだ。けど、テスラの実力を考えると、彼女たちではむしろ足手纏いだし……。


「いいから、待て」


「ああ! なぜだ、リーク!」「テスラ様の危機だぞ」


「俺たちは、テスラ様から留守を任されているんだぞ。町を離れて勝手に揉め事を起こしてどうする」


「い、いや、しかし……」


「そもそも、テスラ様が負けるわけがないだろ。俺たちには、俺たちの役目があるはずだ。この町を守るよう言われたじゃないか」


「けど、リークさん……。スピネイル様だって、お姉ちゃんの強さを知っているハズなんです。だから、きっと卑劣な企みが……」


「――わかってるよ。だから、俺が行ってくる」


 あーあ。本当は嫌だよ。だって、テスラから留守を任せられたんだぜ。持ち場を離れたら、絶対に怒られるし。


「へ……リークさんが……?」


「ああ、全力で向かえば、夜明けまでには間に合うかな」


 俺は、軽く屈伸運動を始める。


「お、おい、リーク。おまえが行くって……ひとりでか?」


「リーク様はお強いですよ。テスラ様に匹敵するぐらい」


 ククルが説明してくれる。たぶん、俺の方が強いけどね。テスラの立場を立ててあげたのだろう。


「そういうこと。そんかし、この町のことは頼むぜ? なにかあったら、俺がテスラ様に殺されちまうからな――」


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