第35話 クレルハラートへようこそ
翌日、テスラはバルティアを出立。その日のうちに領内のグランターナの町へ。さらに次の日、都であるクレルハラートにやってきた。
お供は、学院教授のファンサ。そして、彼女の
品行方正で知識もある。物々しい私兵を連れてくるのも、先方に失礼だと思った。それに、知識もあるので、クランバルジュの文化や経済、歴史などもいろいろと教えてくれるだろう。
スピネイルへの土産は、バルティアの特産品。主に酒である。あとは金品。たいした出費ではない。馬車に乗せて運ぶのだ。
「テスラ様は、クレルハラートは初めてですか?」
町の中。広い大通りを歩きながら、ファンサが尋ねてきた。彼女の弟子たちは、うしろから馬車を操ってくれている。
「2年前にきたことがある。当時よりも建物は増えたが、活気は薄れている気がするな」
「バルティアが栄えすぎているので、そう感じられるのでは?」
クレルハラートの町は特殊だ。『魔物』を経済に取り込んでいる。例えば飛竜。普通なら飼い慣らすことのできないドラゴンを、子供の頃から育てることによって従順にする。そのおかげで遠方への運搬が上手くいっている。さらに、兵を乗せたドラゴンリッターと呼ばれる部隊は圧巻だ。1騎で、100の騎馬に相当するといわれている。
「どうしますか? 夕食を食べてから、スピネイル卿にご挨拶を?」
「遅くなってからでは失礼だろう。先に挨拶へ行く」
テスラ、ファンサ。そして二名の従者は、スピネイルの屋敷へと向かった。門の前にいる衛兵に訪問を告げると、すぐさま門を開いてくれた。馬車を従者に任せて、テスラとファンサは屋敷の方へ。すると、荘厳な玄関からスピネイルが現れる――。
「これはこれは、ようこそおいでくださいました。テスラ様」
煌びやかな詰め襟貴族服の男性――。真ん中からわけられたヘアスタイルは実に清潔感がある。歳はたしか30。眼鏡の奥底には紅い瞳。クラージュ家独特の色だ。
「出迎え、恐縮であります。スピネイル殿」
恭しく挨拶をするテスラとファンサ。
「このたびは、記念すべき300年式に招待していただき恐悦至極。隣り合う領主同士、これからも末永きお付き合いをお願いたします。ささやかではありますが、土産の品を用意させてもらいました。あとで、部屋の方に届けさせていただきます」
「それは楽しみです。過分なお気遣い、感謝いたします」
にこりと笑うスピネイル。
「テスラ様のお噂はかねがね。ご活躍なさっていらっしゃるようですが……件の図書館の方は、大丈夫なのですか?」
「心配なさることでも?」
「明日のパーティには、王都からバルトランド公爵いらっしゃる予定なのです」
バルトランド公爵とは、国王陛下の叔父である。外交の面で、陛下の代わりにいろいろと動く重鎮だ。此度の招待客の中では、いちばんの大物となる。
「心配はご無用。こちらとて筋は通しておりますので」
「はは、それならよいのですが。――部屋は用意してございますので、本日はごゆるりとおくつろぎください。夕食は済ませましたかな? よろしければ、お部屋まで運ばせますが?」
「町を見て回りたいので、夕食は外で食べようかと。魔物による経済特区というものを拝見させていただきたい――」
「そうでしたか。ならば、ごゆるりと。テスラ様」
そう言って、スピネイルは薄い笑みを貼り付けるのだった。
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