第26話 嬉々倍々。嬉しい誤算は喜び倍増

「ここが採石場か……」


 町から5キロほど離れた山。切り立った崖の麓で、数多の労働者が働いていた。ゆっくりと眺めながら、テスラはそれらを観察していた。


 ――リークに仕事を任せてから3週間。


 たったそれだけの間に、見事なほど城郭都市化計画が進んでいる。これは、テスラにとっての嬉しい誤算であった。実を言えば、これほどの普請を、若いリークが担えると思っていなかった。失敗からでも学べることがあるゆえ、あえて難題を投げかけたのだが――まさか、ここまで上手くいくとは思っていなかった。


 すでに、バルティアでは建築工事が始まっていて、1000人近い労働者が楽しそうに従事している。また、領内7カ所で採石場も建設されており、滞りなく運営できていた。


 また、生徒たちが資金集めに奔走しているという報告も聞いている。これに関しても見事。自発的に働きたがる若者たちに、自らが働きたいと願っている職場で研修することができる。結果、損する人がいない上での資金繰りに成功していた。


「よもや、これほどとはな。ラーズイッド卿も、御子息に素晴らしい教育を施したものだ。あるいは、リーク自身が桁外れに頭がいいか、だな――」


「あ、テスラお姉ちゃん!」


 テスラの姿を見つけたのか、ミトリが嬉しそうに駆け寄ってくる。


「ミトリか。そういえば、おまえは採石場の建設に関わっているんだったな」


「7つの現場を順番に見回っているのです。最近、顔を見せられなくてごめんなさい」


「おまえが楽しく働けているのなら構わん」


「はい、目標を持って働くって素敵なのです。大勢の人たちのためになるし、お姉ちゃんやリークさんのためにもなるし、そして国のためにもなりますしね」


 こんな活き活きとしたミトリを見るのは、初めてかもしれない。いつも、実家のことや結婚相手のことや、自分の未来のためのことを思って、必死になっているミトリしか見ていなかった。


「どれ、ここで採れているダルコニア石を見せてもらっていいか?」


「もちろん! この辺りのダルコニア石は、とびきり品質がいいのです」


 言って、案内してくれるミトリ。崖から飛び出た、荒々しい岩肌。巨大で無骨なダルコニア石を見せられる。


「ふむ。これが形成される前のダルコニア石か」


 テスラは岩に触れてみる。ダルコニア石は硬い上に魔力を込めることができる。それによって、対魔法防御も高いので、城壁に適しているのだ。


「面白いことをやっているのだな……」


「ん? お姉ちゃんも、リークさんに協力したくなったのです?」


「かもな」と、言ってテスラは薄い笑みを浮かべた。


「どれ、ひとつ私も貢献してみるか――」


 テスラは回し蹴りを撃ち放つ。すると、岩肌の上部がえぐられた。「きゃ」と怯むミトリ。テスラは、さらに蹴りを繰り出していく。そうしていくうちに、やがて巨大なひとつの岩石をつくりだす。


 そして、手刀を繰り出す。無骨だった岩石が、長方形に形成されていく。表面はなめらか。まるで、人工的につくられた巨大なレンガのようであった――。




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