この恋はオニユリのように
ジョーケン
第1話 プロローグ
朝起きたら妹ができていた。
人に話したらどうかしてしまったんじゃないかと思うだろう。
でも、さらにおかしなことに家族もご近所さんも、幼馴染ですら妹が昔からいたという。
一番怖いのは――どう考えてもオカルトな出来事で、怖いはずなのに妹に親近感を覚えているのだ。
この、儚げで純粋な妹に。どうしようもなく私は惹かれている。
「ちょっと穂澄(ほずみ)~。あんたまた遅刻するわよー」
「うぅん、今日休校日だってばー」
「もう、早く起きちゃいなさい!」
「うるさ……怒鳴らなくてもわかるっての……」
スマホを見ると朝の9時を回ろうとしていた。
軽い舌打ちをしたあとのそりとベッドから起き上がる。
「もう、咲蕾(さら)ちゃんは起きてるのよ!お姉ちゃんなんだからしっかりしてよー」
「……さら? だれ」
半覚醒の状態で起き上がると見知らぬ名前に首を傾げた。
気になってそのまま部屋を出て、リビングへ行く。
キッチンでは母親が食器を洗い、食卓では父が食後のコーヒーを飲んでいた。
いつも通りの光景。いつも通りの家族の食卓。
そして――白い髪の女の子が一緒に食事を食べていた。
小さい口を動かして、パンを満面の笑みで食べている。
白い髪と浮世離れした美人。純日本人の母と父からは生まれてきそうにもない目鼻立ちがしっかりしている。
少しの間呆けているとさら、と呼ばれた子がこちらを見て首を傾げた。
「あれ、お姉ちゃん食べないの?」
「は? いや、え」
状況がうまく飲み込めない。
まだ夢でも見ているんだろうか。そう思って洗面所へ行き、顔を洗い、再び戻る。いる。
「え、ちょ、アンタだれ!?」
突然の大声に母も父も目を見開き、こちらをみる。
私がおかしなやつがいる、と指をさしているとあちらも同じように怪訝な表情を浮かべた。
「あんたまだ寝ぼけてんの? 早く食べちゃいなさいな」
「いや、だから誰だって。朝起きたら知らないやつがごはん食べてるのホラーじゃん」
「穂澄」
私の指摘に、父が静かに嗜めるように私の名前を呼んだ。明らかに怒っている。
「キミが思春期なのはよくわかる。けどね、一緒に暮らしてきた妹を誰だなんていけないよ」
「は、はぁ!? いや、なにこれ。ちょっとあんたもなんか言いなさいよ」
食ってかかろうとしたが、ケラケラと妹は笑い出した。
「あー、あれだ。お姉ちゃん、もしかして取っておいたプリン食べたの怒ってる?」
「は、プリン? あ」
冷蔵庫を見ると確かに自分用にとっておいたプリンが無くなっていた。
わけがわからない上に人のプリンを食べやがったと来た。
怒っていいのやら泣きたいのやらわけがわからない。
考えていると、後頭部をたたかれる。振り向くと起こった表情で母がいた。
「早く食べなさい!」
仕方なく朝食を取る。
父は休日出勤とかでその後すぐに出勤へ。母もパートがあるとかで出かけてしまった。
もそもそと朝食を食べながら、朝のテレビ番組を見る妹を観察する。
観ればみるほどに現実離れした容姿。
シルクのような髪に肌もきめ細かい。
観れば見るほどにかわいい。
「ん、なに?」
「……あんた、なんなの?」
私の視線に気づいたのか、こちらを振り向く妹。
咲蕾、だったか。
私の怪訝な表情を見て、苦笑する妹。
立ち上がって、こちらに近づいてくる。
「な、なによ」
「別に。でも、そんなに怖がらなくていいよ」
妹が私に耳打ちする。
ここには誰もいないはずなのに、私達だけなのに。
まるで2人だけの秘密だよ、というように。
「私って実は妖精なんだ」
透明感のある声が頭に響く。
驚いて咲蕾を見ると、いたずらが見つかったようにはにかんでいた。
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