コズミックシティ

武見倉森

prologue

 コズミックシティという名前を誰がつけたのかということに歴史書は固く沈黙を保っている。

 歴史書が口を開くのを待つ仕事というものがコズミックシティにはある。

 音楽が盛んだという。少なくとも、音楽が存在する街であることは確かだ。

 一日の終わりにふらりと寄る店が多い。これもまた確かなことだ。

 歴史書の記述に、日によって変化があるという噂があり、街の役所でそのことについて電話で訊ねると、翌日新興宗教の勧誘が必ず家にくる。

 コズミックシティは一度滅んでいる。このことは歴史書に記述がない。それは歴史書が歴史以前を書けないからだとされる。

 二度以上滅んでいる可能性はある。

 路面電車がもっとも発達した街の移動手段であり、車は街の人々から敬遠される傾向にある。

 路面電車に轢かれる人はいない。いないことになっている。

 猫が多く、犬が少ない。蛇はいない。

 海鮮がうまい。コズミックシティの名物にあらゆる海鮮を煮て作るソースがあり、中毒性がたびたび問題になる。

 雨が多いが、スコールのような降り方せず、どちらかといえば静かに降る。

 夏は涼しい。冬は寒い。

 雪が降るとあらゆる生産活動は静止する。ただし雪が長引くことはない。

 雪が長引いた結果、コズミックシティはかつて滅んだのだとする説を唱える者もいる。

 広場は住民の憩いの場であり、かつてそこで虐殺が起きたことは忘れられている。

 時計塔は街最大のデートスポットになっている。

 血液を見たことがないという人間がコズミックシティには多い。

 時計塔は鐘を鳴らす。間隔は常に一定で、違うと感じる者はその者の方に問題があるとされる。

 コズミックシティは天国ではない。

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