34話

俺は人柱をすることにした。


イヤ何、ちょっとスレに情報を突っ込んだ後は何というか……ゲームをしたくなるものだ。この先ゴミ共の人柱対象範囲はより大きく……いつもの・・・・エンジンを使っているゲーム全て・・、とかそういうレベルに……変化していくことだろう。範囲の拡大は当然人手不足を呼ぶ―――そいつを今のうちに補ってやろうっつーワケよ。俺は社会奉仕精神に満ち溢れていた。

早速ブラウザを立ち上げてWikiへGo、「人柱募集」ページを見る……アレ?俺は首を傾げ、衣装1200ポイントがちょっと揺れて謎のエフェクトを散らした。そして謎のエフェクトとブラウザから漏れ出す光が奇跡的なフォーメーションを取って虹が発生した。殺風景な部屋に咲く一つの彩りを前に俺の心は高鳴る。綺麗だなァ~~~~。しかし5秒くらいで彩りは消失爆散した。クソがッ!!!俺はブラウザに戻った。TAKE 2……アレ?俺は首を傾げ、謎のエフェクトは今度は散らなかった。なんか条件があるのかなコレ、何……?考察を開始する。そもそも1200ポイントっつー衣装の世界で見るとアホみたいなはした金で売られてるようなアイテムがエフェクトを出すのがおかしい、何かしら細工が仕掛けられていると考えるのが自然だろう……一体何だ?俺は最初ミラトラの運営からコレが送られてきたときチャチすぎてビビったが、チャチいのは仮初めの姿で実際は裏に何かがあるのか……???俺は5分ほど考えた後にめんどくさくなってもう一度ブラウザに戻った。TAKE 3……アレ?俺は首を傾げ、偶然目をつぶっていたので謎のエフェクトが散ったかどうかは分からなかった。イヤ目をつぶってたらアレ?できないのでは?TAKE 4……アレ?俺は首を傾げた。目の前のウィンドウを埋め尽くす文字列は……ほとんどの人柱が予約済み・・・・であることを示している。さてはコレ……俺はエフェクトから目を逸らしつつ考える。ゴミ共が俺と全く同じ事・・・・・を考えたな?やるじゃねえか……俺は謎の上から目線でゴミ共を評した。イヤしかしどうするかな、どのゲームも埋まってやがる……スクロール操作を取りつつ確認を行う。『オフロード・オブデッド』、『ゴルフVR』、『クアドランブル・マギヘルタ』……ウームアレもダメソレもダメ、これなんか既にデスゲームじゃない・・・・・・・・・の印がついてやがる。ちょっとやる気出し過ぎでは……???徐々に確認は適当になり、スクロールの中で流れていく無限の非デスゲーム確認中デスゲーム認識する・・・・のみと化してゆく……………………


その時。


俺は見つけた……色彩の川の中にただ一つ、無色未確認のマーカーを持つ一つのゲームを。まるで旅立つ幾千の渡り鳥の中、一羽取り残された傷負いの雛の如く……一覧ページの片隅に、ただ蹲るそれを。普段の俺ならば、人柱対象のゲームはある程度吟味する・・・・ものだが―――今回に関しては違った。何せやってやるぞと一念発起したのにいざチャンスが回ってくると辞めるっつーのはダサいし、何より運命・・を感じたのだ。だから簡易編集ボタンを押してそいつの状態ステータス確認中に変化させたし、同時並行で開いたストアの検索バーに、ゲームタイトルを入力していた……その名は。


『みんなで!わくわくクッキング』。



俺は後悔した。


イヤ、冷静に考えて運命・・って理由だけで8580円(税込)ゲーを即バイするのはちょっと思い切りが良すぎたな、と……目の前に表示された『ダウンロード中:2時間38分/2時間38分 完了!』の表示を睨みつつ考える。ポップな字体がインパクトを与えるパッケージ画面が、まさに今俺の眼前に顕現していた。……いや落ち着け、ゲームってのは理論上は永遠に遊べるんだ、元なんていくらでも取れるさ……俺は立ち直った風の雰囲気を漂わせつつホーム画面からゲームを起動する。


……よくVRゲームの起動を「潜り込みフルダイブ」と称する奴がいるが、ユーザーはVRマシンを被った時点ですでにダイブを完了しているから厳密にはそれは間違いだ……そういう言葉遊びがしたいなら、ゲームへの潜り直しリダイブとでも表現するべきだろう。俺はどうでもいい事を考えて後悔を必死で打ち消しつつ、なんだか不定形な感じになっている意識に倣った。



ログインしてすぐ覚えるいつもの・・・・感じ、とりあえず第一関門は突破だ……wikiのリストへの追加条件の一つに『公式サイトの「ゲームエンジン」欄が空白だった・・・・・もの』と言うのがある。いつもの・・・・を使ってるメーカーはどいつもこいつもエンジンについて固有名詞を出さないっつー習性があるんで、それを利用した判定法だが……当然のことながら『そもそもゲームエンジン欄が無いだけ』とか『ゲームエンジンを使ってない』とか『また別の無名エンジンだった』みたいな間違いパターンも大量に存在する。これだけだと当然信憑性に欠けるから、他にもいろんな要素を見て多角的に『デスゲームスコア』みたいなモノを付けていくんだが……それにしても間違えることはある。今回の場合、初手爆死は避けられた。俺は胸を撫で下ろしつつ、とりあえず辺りを見回した。えーっと、パッと目に留まる物としては……


A:直方体(テーブル?)

B:Aの上に置かれた直方体(まな板?)

C:Bに添えられた形容しがたい何か(包丁?)

D:Bの上に置かれた円柱(きゅうり?いやにんじんである可能性もある)

E:壁と天井と床(壁と天井と床)


こんなところだな。俺は頭を抱えた。イヤあの……こう……もういいや。ちょっと一度ログアウトしよ……俺は若干頭を冷やすためにメニューを開いたがログアウトボタンが無かったのでビビった。何だとッ!?!??慌てて再び周囲を見回す。アタリを引いたことに対する驚愕と歓喜で高鳴ったバーチャル心臓がうるさく鳴る。しかしそれに反して、部屋はどこまでも静寂と殺風景に包まれて……豪華な衣装のGMもプレイ開始3時間くらいで死ぬマスコットキャラも解説ウィンドウも出てこない。要するに告知が無い・・・・・ってコトだ。素晴らしい、俺が一番好きな奴じゃないか……!!!!!俺は喜んだが、一瞬後に「あー、あー、聞こえますか?聞こえない方はGMコールお願いします」という声が聞こえたので舌打ちでキャンセルした。無いんじゃなくて遅れただけかよクソが……露骨に機嫌を悪くしつつ包丁?を弄んで続報を待つ。ホォ~~~ラ早くお知らせしろや、エェ?


『えーっと、全員聞こえるようなので……告知させていただきます!えー、この度このゲーム―――「みんなで!わくわくクッキング」は、デスゲームと化しました!』


全員・・、か……この部屋に俺以外誰も見られないことを考えると、多分社会的死ゲーみたいな一人一部屋・・・・・のタイプ、【白い部屋】モデルだな。いや厳密には違うんだけども……アレだ、MMOというよりソシャゲなんだ。プレイヤー同士の繋がりが薄くて、単にランキングくらいしかオンライン要素が無い……くらいのポジね。


『あの、攻略しないとログアウトできないですし、特定の条件を揃えると死にます!ご注意ください!』


っつーかサァ……俺はストレスを覚えた。【白い部屋】モデルでわざわざアナウンス方式で告知を行う必要あります?っつー話なんだよな。告知ウィンドウでいいじゃんという。基本的にウィンドウとアナウンスの関係性は、ちょうど現実世界の新聞とラジオのそれに近い……情報を得るにあたっての理論値・・・は前者の方が大きいが、後者にはながら・・・で聞けるという利点がある訳だ。でも【白い部屋】モデルは基本的に別に放置してるだけで死ぬような環境では無いから、ながら・・・の利点が大して生かされない……そうなるとウィンドウでよくね?って結局はなっちゃうんだよね。


『……あっ、コメントありがとうございます!えーっと……「金返せ」ですか。はい、返金は受け付けておりません!』


チッ……俺は二度目の舌打ちをした。とりあえずコメント欄とやらを開いて「デスゲームが終わった後も遊べますか?」と書き込む。返金できねーならせめて永遠に遊びたいからな……


『次のコメント!えーっと……「デスゲームが終わった後も遊べますか?」。えーと、次のコメント!』


待てやゴラァ!!!!!俺はキレた。はぐらかすなよそこで!!!!!はぐらかすくらいならまだ否定した方がマシでしょ!!!!否定してそれで素直に謝っとけばいいんだよ!!!!俺はその旨を思考入力でコメント欄に書き込んで投稿しようとしたら「制限文字数は400です」とアラートを出されたので『だろう』を『だろ』にするとか句読点を削るとかの涙ぐましい努力でどうにか400字ピッタで投稿し、そして8秒後に報告を受けて削除された。ハァ…………溜息を吐く。消費者意識に極めて欠けたGMは、俺の存在を一切スルーしてコメントを読む。


『えー、次のコメント……「クリア条件は?」ですか』


……そういえば何だろう?俺は断固として戦う意思を持つことに頭がいっぱいだったが、冷静に考えてソコも地味に謎だ……このゲームはクッキングシミュレーターなのにそれをデスゲームにしてる時点で既に謎だが、まあ餓死・・みたいな概念もあるしそこは問題ないだろう……だがクリア条件とは?見たところステージ制なわけでもなさそうだし、何をしたら脱出できるのかは確かに不明だ。サバイバル型かな?


『はい。言い忘れていましたが、クリア条件は―――死亡・・、です』


はい?


『考えたんですよ……あなた方は、折角デスゲームを用意しても全然死んでくれない……じゃあ逆にすればいいんだって。このゲームにおいて生存は死・・・・であり、死亡は生・・・・です!3日以内にどうにかして自殺しなければ、あなた方の脳は曝された量子波に朽ちることでしょう!!!!ハハハハハ……ハハハハハハハ!!!!!』


……アナウンス式にしたのはこれがやりたかったからか。一つの解決・・と共に思考を切り替える……死亡は生・・・・?なるほど確かに、デスゲームとはあくまでもゲームに死の要素を加えた・・・・・・・・存在でしかない―――「死ぬと死ぬ」はそのうち一パターンに過ぎず、他にも例えば「落ちると死ぬ」でも「スコアが少ないと死ぬ」でも「投票数が最多だと死ぬ」でも……何より、「生きると死ぬ」でも、デスゲームは成立するのだ。


『ハハハハハ……最後のコメントを読みますよ。「どうしてそんな回りくどい事を」ォ~~~???簡単な話じゃないですかぁ。クッキングシミュレーター……と言うか物理演算ゲーって、要するに楽しんだもん勝ち・・・・・・・・なゲームでしょう?だったら―――』


……ふとテーブル?の上に目を向けた。まな板?やきゅうり?……何より、右手に握った包丁?は、チープなポリゴンを崩さずに―――物理演算だけを上等にして、そこに無造作に配置されていた。


『―――死なない何もしない奴こそが、真の敗者になるべきですよ!!!!!』


…………こんな装備で、どうやって死ねばいい・・・・・・・・・・

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