海水浴場叙景
ムラサキハルカ
プロローグ
燦々と降り注ぐ日差しを砂浜がきらきらと反射していた。フライパンのように熱せられた細かい砂粒の絨毯の上では、そこかしこを水着姿の老若男女が蠢いている。各々の声と声は重なりに重なり喧騒を生んでいた。
そんな砂浜を見下ろすようにして、コンクリート堤越しにに二人の若い男女が立っている。
白い半袖のTシャツと紺の短パンを身につけた男は、がっちりとした体型で、緑色のナップサックを背負っていた。履いているものの短さゆえにあらわになった足はどことなく毛深く、履き物は緑色のゴムサンダルだった。
その隣にいる純白のワンピースを着た女は、薄茶色の長い髪の毛を風で波打たせつつ、被っている麦藁帽子を右手で押さえている。細い足は身にまとっているものほどではなくとも色白で、履き物は貝の意匠を凝らしたこれまた白いサンダル。
「海だな」
男の低い声に、
「海だね」
女もまた低めの声で応じた。
「久々に来たから、ちょっとわくわくしてるんだよね」
くすくすと笑う女に、男も薄い苦笑いを見せる。
「俺も、そんなところかな」
二人でなんとはなしにおかしがったあと、どちらともなく空を見上げれば、まばらに配置された雲の後ろに綺麗な水色が広がっている。その薄い青地に更なるシミを作るみたいにして、カモメやらウミネコやらが鳴き声をあげている。そうやって見上げたあと、男は目を瞑り、女は顔を伏せた。
「とりあえず、交通費分くらいは元を取らないとな」
男は鼻の上を搔き、そんな言葉を口にすると、女は二度ほど頷いてみせる。
「とにかく楽しいといいね」
口にしてから、二人してコンクリートの階段を下りはじめ、程なくして砂場へと足を付けた。
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