二十四 再会

 門大達のいる空間とその下にある大地とを断絶させる壁のように、どこまでもどこまでも広がる雲海の中から、翼開長が十メートルくらいはあろうかという大きな蝶のような物に乗っているクラリッサが抜け出て来ると、門大達の方に向かって飛んで来た。




「クラちゃん。あれは何に乗ってるんだ? あんな乗り物この世界にあったっけ?」




「わたくしも初めて見ますわ」




 その場に留まり見つめている二人の元にクラリッサが到着する。




「二人の時間を邪魔して悪いとは思ってるカミン。けど、緊急事態カミンよ。キャスリーカとその軍勢が、流刑地の中に来たカミン。偵察に出ていたクロモ、えっと、三つの悪魔の一つカミン。から報告があったカミン」




 クラリッサが一気にまくし立てるように言った。




「もう来たのか? まさか、いきなり戦争になったりするのか?」 




 門大はクラリッサの顔を見つめて言う。




「向こうの出方次第カミン。ただ」 




 クラリッサが途中で言葉を切り、クラリスタの方を見る。




「なんですの?」




「王子とクラリスタの家族が連れて来られてるみたいカミン。キャスリーカが何かしらよくない事を企んでると思うカミン」




 クラリッサが言って、目を伏せた。




「あのバカ、いや、王子はともかく、クラちゃんの御両親が来たのはそんなに悪い事なんじゃないか? 行って助けよう」




 門大の言葉を聞いたクラリッサが、しばしの間、何かを考えているような顔をする。




「助けに行けば戦闘になると思うカミン。一度湖に戻って、クラリスタを置いて来るカミン。クラリスタはハガネと一緒に待ってて欲しいカミン。




 門大はクラリスタの顔を見た。クラリスタが門大の視線に気付き、門大の顔を見つめる。




「わたくしが行きますわ。あのバカ、いえ、王子はともかく、お父様とお母様はわたくしが助けに行かなくてなりませんわ。わたくしではなく、門大を湖に置いていった方がいいですわ」




「どっちでもいいぽにゅ。早く行くぽにゅ」




 クラリッサの乗っている蝶のような物が言う。




「紹介するのを忘れてたカミン。姿は向こうの世界にもいるアレクサンドラトリバネアゲハみたいな姿をしてるけど、この子はただの大きな蝶じゃないカミン。この子も三つの悪魔のうちの一つカミンよ。名をニッケというカミン。向こうの、お兄にゃふのいた世界に僕が行く前に、ハガネの所にこの子とクロモ、二つの悪魔を呼んで、偵察を頼んでおいたカミン」




「じろじろ見るなぽにゅ」




 ニッケの方に顔を向けていた、門大とクラリスタに向かってニッケが言った。




「ええっと、ごめん」 




「ごめんなさい」




「ニッケ。そんな事言っちゃ駄目カミン。二人とも気にしなくいいかミンよ。ニッケは人見知りが激しいカミン。仲良くなれば凄くいい子カミン。おっといけないカミン。今はこんな話をしてる場合じゃないカミン。どうするカミンか。僕はやっぱりクラリスタは行くべきじゃないと思うカミン。両親を目の前にしたら冷静ではいられないと思うカミンよ」




「クラちゃん。今回は留守番じゃ駄目かな?」




 戦闘になるかも知れない場所になんて、クラちゃんを連れて行けない。と思いつつ門大は言った。




「何か来るぽにゅ」




 言って、ニッケが体の向きを変えると雲海の方に顔を向ける。




「急にどうした?」




「ニッケは周囲の気配を敏感に察知する事ができるカミン。だから」




 クラリッサの言葉の途中で、轟音を響かせつつ、ジェット戦闘機が一機、雲海を突き破って垂直に上昇して来た。




「なんだ?」




「あれは、なんですの?」




 門大達の頭上はるか遠くでジェット戦闘機がターンをし、機体底部を雲海に対して水平にすると、そのままゆっくりと垂直に降下を始めた。門大達の目前まで来たジェット戦闘機が空中で制止する。




「クラリッサ。元気にしてた?」




 ジェット戦闘機のコックピットの後ろ、胴体部分の上にしゃがんでいた少女がゆっくりと立ち上がり、顔を上げて言った。




「峰子」




「今はキャスリーカなんだけど。で、そっちが新しい神龍人? あんた、あのぼーっとしてた転生者なんでしょ? 胸の方はどう? まだ痛むって、もう体が違うから、そっか。そっちのあんたが撃たれた体の方の子か」




 キャスリーカが、クラリスタに向かって右手を伸ばすと、掌の中に黒色の物体、拳銃が出現する。




「ここなら何をしても死なないんだよね?」




「やめろ」




 門大はクラリスタを守るように体の向きを変え、キャスリーカに自分の右肩を向けるような格好をする。




「格好いいね。機関砲を撃ちたくなって来た。神龍人の体を貫通するかな? もし貫通したら庇ってる子にも当たっちゃうかも」




「峰子、いや、キャスリーカ。やめるカミン。目的は僕のはずカミン。攻撃するなら僕を攻撃するカミン」




「昔からお前は嫌いだったぽにゅ。殺すぽにゅ」




 キャスリーカが右手の向きを変え、拳銃の銃口をニッケの方に向ける。




「ぽにゅとか、カミンとか、だっさ。よく恥ずかしくもなく話ができるね。私だったら自殺するよ。私を殺すぽにゅ? 面白いカミン。やってみろ。ほら。さっさとやれよ」




 キャスリーカが両手を大きく左右に広げた。




「お兄にゃふ。これはチャンスカミン。僕達がこの子の相手をしてるカミン。その間にクラリスタの両親達を助けに行くカミン」




 クラリッサが小声で言う。




「何々? 内緒話? まさか逃げる気? じゃあ、逃げて、私に見付かったら問答無用で殺されるってのはどう? あ。死なないのか。まあ、それでもいいや。死ぬほどに苦しめるから。神龍人の居場所はすぐに分かるから、見付けたら、まずは、その、あんたが大切そうにしてる、クラリスタだっけ? その子から無茶苦茶にしてやる」




「居場所が分かるとは、どういう事カミン? ……。ここに僕達がいる事はどうして分かったカミン?」




 キャスリーカが拳銃を持っていない方の手の中に、小さな銀色の円形の物体を出現させる。




「神様レーダー」




 国民的アニメに登場する猫型ロボットのような口調でキャスリーカが言った。




「黙れぽにゅ。殺すぽにゅ」




「神様、レーダー?」




「キャスリーカ。頭は大丈夫カミン?」




「あの言い方はなんですの? 何か意味がありますの?」




 キャスリーカが、こほんと咳払いを一つする。




「結構恥ずかしかったんだけど、なんか、反応が悪いじゃない。転生者。特にあんたよ。ツッコミなさいよね。もう二度とやってあげないから。それで、これはちゃんと使える本物だから。クラリッサは覚えてない? 転生した世界の中に、神々と戦ってる人類達のいた世界があったでしょ? あそこのよ。理論とか構造とかは全然分からないけど、神の居場所が分かるの。ただ、色々条件があって、私とクラリッサみたいな中途半端な者の事は探知できない。後は、結界っていうのかな? 神が作り出す特定の場所みたいな所にいる神の事も探知できないみたい。実はあんまり使えないんだけど、さっき使ってみたら反応があったんだよね。そんで来たらあんた達がいたってわけ」




「なんて事カミン。そんな物があったら、どこにいてもお兄にゃふの居場所が分かってしまうカミン」




 クラリッサが門大の方に顔を向ける。




「そういう事。だから、そのぼーっとしてるのとは一緒にいない方がいいんじゃない?」




 キャスリーカがそこまで言って言葉を切ったが、すぐに何かを思い付いたような顔をすると再び口を開いた。




「そうだ。いい事思い付いた。ねえ、転生者。あんた、私と一緒に来なよ。来てくれたら、今は何もしないし、王子と、その子、クラリスタの親をそっちに渡してあげる」




 キャスリーカが言い終えると、楽しそうに嬉しそうに微笑み、クラリスタの顔を見つめた。

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