協力者、狂気の碩学
周辺地域を封鎖した寂しい港。
アルバートは車椅子を押して、海潮で腐りかけた桟橋にやってきた。
「で、これはなんだ?」
「しらたま食べたいにょー」
「あんたの魔術工房の奥の部屋を調べさせてもらった」
「ワッチの帝国はアーケストレス魔術の最高峰である。大御所様、万歳!」
「これは系譜だ。あんたの魔術家が脈々とつないできた血の証明だ」
アルバートは魔術工房の奥部屋で発見した写真を、車いすに座るさかな博士に渡す。
さかな博士は、初めてふざけるのをやめて、写真に視線を落とした。
写真には、さかな博士と、その息子、さらには孫と思われる者たちが笑顔で映っている。
「おお! ワッチの息子と、その嫁ちゃんだぁ! うんうん、才能のない息子なのに、よくぞ嫁に来てくれたものだよね!」
「孫の代まで血が繋がっていたことを考えれば、いまあんたの家に、あんただけが住んでるのは不自然すぎる」
「……みんな、海に帰ったんだぁ」
「その言葉、あなたの言うキメラの研究に彼らを使ったととらえてよろしいですか」
車いすを押すアルバートは、桟橋の先端まできて、手を叩く。
すると、水面から初日に出会った人魚が現れた。
「写真にうつっているあんたの孫とそっくりだ」
「ワッチは神」
「否定はしないと」
「ワッチは間違えない。エドガーが間違えてるんだ。キメラを追い越そうなんておこがましい」
「わかりました」
アルバートはしゃがみこみ、人魚に「ご苦労、もう行っていいいよ」と告げる。
人魚はアルバートの手を人恋しそうに掴んで離さない。
さかな博士を倒したあと、奥の部屋で水槽に監禁される彼女を解放してから、どうにも懐かれてしまったようだ。
「仕方ないやつめ」
人魚に手をスリスリされながら話を続ける。
「で、どうする気だア。ワッチを魔術協会に引き渡すかい?? あそこの封印部はえげつないからぁ、あんまり捕まりたくないんだけどぉ〜」
「いえ、怪物学会が引き取ります」
「?? 怪物学会? なにそれ」
「新しい魔術組織ですよ。これから先、魔術世界を牽引することになる」
「なにやら、面白いことをしようとしてるみたいだあねェ~。エドガーでも、魔術協会での地位に甘んじたというのに、君はその上をいくと?」
「強大な敵を作ってしまったからな」
「巨大な敵ぃ?」
「血の一族」
「サウザンドラかぁ、くだらない魔術だぁ、あれこそ吸血鬼のまねっこ。ただの劣化コピー品の量産にすぎない」
「とはいえ、強力なことに違いはない」
「まあ」
「今はこちらの組織を創設するための、金と物と、人が必要、ともすれば狂気の碩学をとりこむ覚悟は出来てる」
「っ、だから、ワッチを? ……あっははははははッ、君はワッチと同じだア!」
さかな博士は自ら車いすを押して、水辺で人魚を撫でるアルバートに近寄る。
「あんたのスーパーナチュラルは有益だ」
沖を見つめる。
「あのクラーケン、貿易ギルドを困らせていたやつです。あれは、あなたの人体変態の産物ですよね?」
「ああ! そうとも! ワッチのスーパーナチュラルは、本質を整形し直すゥ! ワッチの刻印【深海使役式】は、人間を海に還元する奇跡の業だ! ワッチの変異体こそが、一番キメラに近いィぃぃぃぃぃい!」
「そうですか。では、あなたとは深い話をする必要がありそうです。──低コストのファングを、クラーケンに変態させられるのか、とか」
アルバートの怪しげな笑み。
さかな博士は充血した瞳を見開く。
「ああ、チミはエドガーにそっくりだぁ」
「ようこそ、怪物学会へ。あなたのイかれた活躍を期待しています」
──この出会いは、怪物学会創世記にて活躍した魔術師たち『怪物』と『狂気の碩学』の出会いとして後世に伝えられる事となる。
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