ジェノン商会籠絡編 Ⅵ


 ──しばらく後


 マクド・ジェノンと護衛の『翠竜堕とし』は第5ジェノン鉱山へとやってきていた。


「思ってたより賑やかですね」

「冒険者たちです。みんなマクドさんが雇ったんですかね?」


 タイヨウはエイポックにたずねる。

 

「いや、ミスターが雇ったのは俺たちだけなはずだが……」


 言ってみたものの、坑道の入り口のまえには、数十人、計20チームの冒険者パーティが集っている事実は変わらない。


 エイポックは困ったように頭をぽりぽりと掻く。

 

「おい、何が起こっておる!」


 鉱山の視察に参上したマクドは、メイドに説明を求める。

 メイドは、あたふたしながら近くの冒険者たちから話を伺った。

 

「どうやら冒険者ギルドに依頼が届いているようです」

「依頼? 依頼だと? 誰がそんなことをする!」

「──俺だ」


 その声に振りかえると、一人の少年が立っていた。片手に鞄をもち、もう片方の手はポケットに突っこみ尊大な態度をくずさない。

 かたわらには軽装備をつけた鋼の執事と、灰色髪の少女が控えている。


 語るべくもなく、アルバート・アダンが率いる御一行である。


 マクドは少年の澄ました顔を見た瞬間、ワルポーロに辛酸を舐めさせられた記憶がフラッシュバックする。アダンアレルギーの発症であった。


「貴様……っ、これはどう言うつもりだ?」

「俺は貴族の責務を果たしに来ただけだ。どうやら、ここ最近、モンスターか鉱山近辺に異常発生しているらしくてな。近隣住民にも被害が出てる」

「なんだと、そんな話聞いてないぞ!」

「お前が知らないだけだろう」

「ッ、こ、この…!」

「ともかく、鉱山を掌握できていない管理者に代わって、公共に被害をもたらす根源をこのアダンが断たせてもらう事にした。冒険者ギルドへの出資と依頼は、すべてアダンがしてやった。感謝するんだな、マクド・ジェノン」

「勝手な事をするな! 貴族だからと言ってジェノンの私有地でのモンスター討伐行為を勝手に行えるはずがないだろう! ギルドが認めるわけがない!」


 アルバートはアーサーの方を見て、羊皮紙を受け取る。


「ギルド長からの許可はある」

「ッ」

「お前の私有地からモンスターの湧き出してるんだ。ジェノンが1ヶ月にもわたり何の行動を起こさなかったことは、力を持つ者の責務を放棄したと見られてもおかしくない」

「対抗策なら取っていたわいッ! 現に冒険者を送り込んだ!」

「結果は?」


 アルバートの短い問いかけに言い淀む。

 

「ならばやはり、お前には任せられない」


 アルバートは待機していた冒険者たちに「鉱山内のモンスター討伐を開始してくれ」と声をおおきくして言った。


「ガキめ……ッ」

「では、失礼いたします。これでもシルバー等級の冒険者ですので、微力ながら討伐活動を支援したく思っていますので」


 アルバートは皮肉げに言って、アーサーとユウを連れて鉱山へと入っていった。


「凄い事になりましたね、ミスター」

「おい、エイポック」

「なんです?」

「暗い場所であのガキの首を刎ねろ」

「冗談がおキツイ。私が相手にするのは強大な怪物だけです。商会と仲が悪いだけの貴族の坊っちゃんを斬ることなんてとてもとても」

「なら、奴が用意した冒険者たちが無意味になるよう、全力でモンスター狩れ! でなきゃ、貴様の嫁の治療費は払わんぞ!」


 エイポックは飄々とした態度をやめて「そうですね、お金の分は働かないとですね」といって、馬にくくりつけていた使い古された盾と、持ち手の擦れたブロードソードを手にとった。


「んじゃ、誰が一番モンスターを狩れるか競争といきましょうか」


 エイポック率いる『翠竜堕とし』はマクドの周辺を固めながら、鉱山へと入っていった。


 ────────────


 ──鉱山の奥地


 第5ジェノン鉱山と名付けられたこの鉱山は、上質な魔力鉱石が採掘されることで有名だ。


 魔力鉱石は自然の魔力そのもの。

 術や式などといった、人が再現した神秘ではなく、天然の神秘を偶発的に発現させる環境がここにはある。


 アルバートは冒険者たちとモンスターを適当に戦わせながら、先日、仕込みをしておいた魔法陣のもとへやってきていた。


「これは想像以上に想定内だな」


 魔法陣のうえに鎮座する人型の巨石を見て、アルバートは満面の笑顔をうかべる。


「素晴らしいと思わないか? 俺の理論は正しかった。キメラの合成には環境も大きく関わってくるんだ」


 アイリスもティナもいないので、自らの功績を披露する相手がユウしかいない。


 よって、アルバートは自然と彼女に話しかける事になる。


「そ、それは、どういう……」

「魔術工房の安定環境をつくりだす魔法陣のうえで細胞スライムと魔力鉱石と石材を合成しようとも、ゴーレムの生成は成せなかったということだ。しかし、どうだ鉱山というこんな雑な環境なのに今はゴーレムが産まれてるじゃないか!」

「……すごい」


 本心ではアルバートが何を言ってるのか全くわからなかった。

 が、たぶん、こう言っておけば問題ない。現にこういう時の彼は単純なので、問題はなかった。


「そうだろう! きっと地脈の関係だな。この鉱山は天然物のゴーレムが生まれるという話は聞いていた。俺の【観察記録】で条件をより整えれば、ゴーレムの発生は苦じゃないんだ。よし、決めた。この鉱山を買おう。そして、ここを第二の魔術工房にしよう」

「あの、マスター……」

「ん、なんだよ、気持ちよく話しているのに──」

「ジェノンが、『Zシリーズ』を設置してた場所に接近してる…」


 アルバートはその言葉に「そうか、素晴らしい!」と言って邪悪に微笑んだ。


「それでは我が『解答』の威力を確かめにいこうじゃないか。相手はダイヤモンド級冒険者。相手にとって不足はない」


 アルバートは怪書を開いて、ゴーレムをペタペタ触り、図鑑登録を済ませる。


「『竜殺し』『紅鉄』……楽しみだ」

「マスター、足元気を付けて」

「……わかっている」


 足場の悪い道を、ユウに気遣われながら、2人は試合観戦をするために現場へ急行した。

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