第94話 烏口
カデンの偽物ではなく上位互換が出てきた。
デンチを使って動いているのも同じだ。
流石にデンチは作れなかったらしい。
そこはこちらの物を流用だが、エリーズはなかなかやる。
「カデンが売れないと、サバルの奴らとの同盟が怪しくなるな。サバルの農業用の魔道具もすぐに真似されるだろう」
「水道はどうなんだ」
「理解がまだ得られない。水に金を払うという考えがないからな。それに水道管の敷設は国の負担だろう。ヒースレイも渋っている」
「上手くいかないな。ところでカデンの性能の違いは何なんだ?」
「それは、魔法陣の書き手の問題だな。綺麗な魔法陣は消費魔力が少ない」
「なるほどね。線が太くなったり細くなったりすると効率が悪くなるのか。カデンの魔法陣は大きいからハンコという訳にはいかないな」
「サバルの職人が育つのを持つしかないだろう」
「いや、分割してハンコに出来るだろう」
「それは、つなぎ目の所に無理がある」
「うーん、プリンターで魔法陣が打ち出せたらな。そうだ、紙を切ってインクを上から塗るか」
「魔法陣を書くインクはそれなりの値段がする。コストで太刀打ちできないだろう」
「そこは人件費でなんとかする。エリーズは手書きなんだろう」
「それだと職人は育たないぞ」
お絵かき好きな精霊が遊びに来ていて、赤ん坊達をスケッチしている。
赤ん坊がとてとてと近づくと、絵に悪戯書きを始めた。
精霊は笑っている。
「すまんな、邪魔して」
「いいの。楽しいから」
子供にお絵かき道具をプレゼントしようかな。
「サモン、口にいれても平気なクレヨンの新品よ来い」
繋がりが閉じないうちに、金貨を送還。
これで物を持っていかれてもなんとかなるだろう。
クレヨンと紙を子供に持たせる。
すぐに落書きを始めた。
何を書いているのかぐちゃぐちゃで分からないが、楽しそうに笑っているから良いのだろう。
「むっ、閃いた」
「何か閃いたのか」
「親父が学生時代に使っていた製図道具に、烏口というのがあってな。一定の線が引ける」
「ほう、設計図を描けるか」
「実物を見て貰った方が良い。サモン、烏口が入った新品の製図セット出て来い」
そして、さっきのように金貨を送った。
烏口を見せる。
烏口というのは、二枚の金属片がカラスのくちばしの様な形で合わさっている。
インクを金属片の間に入れると線が引ける訳だ。
綺麗な一定の幅で線が引けるので昔は重宝していたらしい。
今はというとサインベンの細いので書く。
「ほう、簡単な構造だ。サバルの工業力なら作り出せるだろう」
「コンパスに付けられるようにもなっているんだ」
「これも作れるだろう」
「この件はこれで良いが。魔力テスターの技術をサバルにも渡そうと思う」
「それは難しいな。烏口だけでも、サバルから貰う見返りが難しいのに魔力テスターもか」
「見返りは、吸硬メタルのパイプの関税をゼロにしてもらう」
「なるほどな。水道の普及を加速させたいのか」
「ああ」
一石二鳥だと思うが。
「関税ゼロを反故にされた場合は、どうするつもりだ?」
「デンチの輸出を止めると言ったらどうかな」
「そのぐらいの脅しは必要だ。それで行こう」
しばらくしてサバルの烏口が出来上がった。
サバルではこの技術とテスターを秘匿技術にするらしい。
ピピデでも秘匿技術にした。
肝心の出来だが、素晴らしい物だった。
綺麗な線がすいすいと描ける。
魔法陣の円もコンパスを使っているので、綺麗なものだ。
サバルの魔法陣の効率は劇的に良くなったらしい。
ピピデでも同様だ。
エリーズのカデンは売れなくなった。
燃費の良さではこちらが勝っている。
機能もテスターで魔法陣を分析しているので、こちらの方が優れている。
子供達が描いた絵をテントの壁に貼る。
相変わらず何が描いてあるのか分からない。
「これはあなたですの」
「エーヴリン、よく分かるな」
「ふふっ、魔力には感情がこもるのですの」
「ほんとだ。何を考えて絵を描いたかが分かる」
清浄な魔力を持った人間が、負の魔力に段々と汚染されるのって、これが関係しているのか。
人を殺す時は殺意があるからな。
植物には殺意がないのか。
いや、毒素を出したりするよな。
でも恨むみたいな感情は、ないのかも知れない。
そこが動物とは違うのだろう。
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