第93話 サイロと牧草ロール
「最近、エリーズの奴らがちょっかいを掛けて来る。だが、攻撃しないですぐに逃げていく。うっとうしくて堪らん」
「ぱぱ」
「おい、ランドルフはパパじゃないだろ。しょっちゅう育児室に来るから、完全に顔を覚えたな」
「だってお前。畑に出てない時は、育児室に入ったきりだろう」
「しょうがない。書斎を作るか」
「おう、テントならいくらでも建てるぞ。それよりエリーズの奴らだ」
「外交でなんとなりそうか」
「駄目だな。こっちを完全に下に見ている」
「そうか、じゃ経済侵略だな」
「よし、カデンを売り込もう。幸いサバルの工場も軌道に乗っているようだし、ピピデの分はエリーズの輸出に回せる」
「そう言えば、ラクーの糞はどうしている?」
「草原ではそのままだな。集落では埋めている」
「肥料にしないのか」
「しないな」
「集めて発酵させろよ」
「言いたい事は分かるが、虫が集まって来るんだ。苦情が出るような事は出来ない」
「うん、確かに。臭いもきついしな。誰も近寄らない草原の一角では利便性が問題か」
「だが、問題は解決できるぞ。魔道具を作れば良い。虫を寄せ付けないし、匂いも漏れない。そういうのを作ろう」
「よし任せた」
肥料はこれで良い。
「ぱぱ、たかいたかい」
「ほら、高い高い」
「きゃきゃきゃ」
もう可愛いな。
「緊張感の欠片もないな。これが二国を統べる人物だと思われない」
「草原の草を刈って飼料を作れ」
「いきなり何だ?」
「牧草サイレージだよ」
「どうやって作る」
「高い高いして閃いた。サイロだよ。中が空洞な塔を作る。そこに刈った草を入れるんだ。そうすると発酵して家畜が沢山食べるような飼料になる」
「ほう、なるほどな。セメントを使えばわけないか」
「刈るのは、草刈り機があるだろ」
「ああ、あのサバルで開発したあれな」
「そうそう、女でも楽々と刈れるだろ」
「そうだな」
歩き始めた赤ん坊がとてとてと歩いてきて俺の足にしがみついた。
「よしよし、可愛いな。キャッチボールしような」
赤ん坊をちょこんと座らせ。
「ほら、ボール投げるぞ」
座った赤ん坊が布の転がったボールを受け取り、転がして返す。
「むっ」
「何か閃いたか」
「ボールだよ。牧草を丸めて円柱にする方法もあったな」
「サイロを作らなくても済むのか」
「そうなんだけど、どうやって円柱にしよう」
「魔道具だな。グラスバインドの魔法の応用でなんとかなるかも知れないな」
「ああ、草を操って拘束するあれか」
「そうだな」
「上手い上手い。ほれ」
「きゃっ、きゃ。もっと」
「書斎はなしだな。お前は子供と遊んでいた方が良いアイデアが出そうだ」
「えっ、そんなぁ。一人になれる空間が欲しかったのに」
「ミーティングをここでするなら良いぞ」
「するする。ここでする」
むっ、負の魔力が草原で発生した。
「どこか、攻めてきたようだ。ちょっと出て来る。ランドルフは子供とキャッチボールでもしておいてくれ」
国境まで飛ぶとピピデの民がラークを走らせながら、迫撃弾を撃ちまくっている。
迫撃弾は命中率が悪いと思っていたら。
弾が地面で爆発した。
吹っ飛ぶ敵兵士。
敵兵士は土で壁を作り、隙間から魔法を撃ちまくる。
ピピデの民はラクーを走らせながら銃撃と迫撃弾を撃つ。
俺が手を出す必要もなく敵兵士は全滅した。
「ご苦労様。浄化しちゃうね。懇願力よ浄化しろ」
「シゲル神にはご苦労を掛けます」
「いいよ。これが仕事だから」
ピピデの民が敵兵士を埋める。
ピピデの民の弔い方だ。
大地に還りそして、植物の一部になる。
その魂は人々やラクーに宿って恩恵をもたらすのだそうだ。
彼らに安らぎを。
「エリーズの奴ら、どういうつもりなんだろう」
「と言うと」
「はい、戦力を小出しにするのは愚策です。考えられるのは偵察というところでしょうか」
威力偵察という奴か。
最初はただの偵察が、今は威力偵察。
大規模侵攻の前触れかな。
嫌だ嫌だ。
何でこの世界の人たちは戦争が好きなんだろう。
いい加減にしてほしい。
宣戦布告も無しなんだな。
そういえば通信の魔道具で使うエリーズの周波数を聞いてない。
というか誰も教えてくれない。
直通ホットラインはノーサンキューという事なんだろうな。
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