第92話 不正を暴く

 サバル国の貴族がピピデ国に不満を持っているらしい。

 俺はサバル国に飛んだ。


「ようこそ、名高いシゲル神に来て頂けるとは光栄です」


 この人はクローバー伯爵。

 今のサバル王の懐刀だ。


「会って頂き、ありがとうございます。礼儀に詳しくないので、不作法は勘弁して下さい」

「いつもの口調で、いいのですよ。気にしません」

「では、さっそく本題に。カデンを委託生産しようと思ってる。それの取りまとめをお願いしたい」


「ほう、実にうま味のある話ですな。なぜと聞いても」

「ピピデの民は人数が少ないから、生産が追い付かない。ヒースレイは農業。ピピデは畜産をメインにやりたい」

「壮大な計画ですな。サバルは食料を他国に握られるという訳ですな。いいでしょう。カデンの生産は引き受けます。ですが、サバルでも空いた土地では農業を推し進めたい」

「いいんじゃないかな。自給率を上げるのは悪い事じゃないし」


「まだ何かありそうですな」

「ここからが本当の本題なんだが、耕運機を作って貰いたい。そして水道だ」

「すいません、不勉強なので耕運機というのが何か分かりません。水道も。言葉の意味は分かるのですが」


「耕運機は土を耕してくれる魔道具だ」

「そんな物を作れば農業の効率が物凄く上がるのではないですか」

「そうだよ。それを目指している。そして、水道は水の道だ。各家庭や色々な地域に水を届ける」

「そうなれば、ますます農業が進みますな」


「それには吸硬メタルが必要なんだ。水の通るパイプはこれじゃないと」

「捕虜から吸硬メタルの事は聞き出さなかったのですか」


「うちは拷問は禁止だから。試験に使うパイプは作ってもらったけど」

「そうですか。なぜそこまでサバルに良くしてくれるのですか」

「手が足りないんだよ。ピピデとヒースレイに水道を引くのにどれだけ人員がいると思う?」


「国を挙げての施策でないと足りませんな。しかし、よろしいのですかな。水をサバル国に握らせても」

「サバルは食料を握られる。ヒースレイとピピデは水を握られる。お互い様だろう」

「ふむ、もう安易に戦争は出来ませんな」

「それも目的の一つだ」


「諸手を挙げて、この案を実行したい所ですが。王に言上するには何かして頂けませんと」

「なら、言う事を聞かない貴族を黙らせてやるよ」

「ほう、そんな事がお出来になる?」

「出来ない事は言わないよ」

「契約成立ですな」


 俺はピピデに反意を抱く貴族の屋敷の前に立った。


「懇願力よ、俺の体を隠せ」


 俺の姿は見えなくなった。


「今、そこに誰が居なかったか?」

「気のせいだろ」


 門番が訝しげに会話している。

 俺は飛んで鉄柵を乗り越えた。


 お邪魔しますよ。

 さてと金庫はどこかな。

 あれっ、負の魔力が強いな。

 地下からか。


 地下室の扉の前にたった。

 この部屋だな。


「懇願力よ、扉を開けろ」


 鍵のかかった扉が開く。

 部屋に入ってそこがどんな部屋か分かった。

 床一面の魔法陣。

 その魔法陣は召喚陣だった。

 そして、負の魔力がびっしりこびりついていた。


 だが、何か足りない。

 懇願力が無いんだ。

 隣の部屋に行く扉があったので開けると、檻があり人が入っていた。

 どの人もすっかり怯えている。


「何だ、風か。いよいよ生贄に奉げられると思ったぜ」


 あの召喚陣を作動させる為に生贄の儀式をしたかのか。

 ところで、生贄って合法なのか。

 合法でも、助ける。

 クローバー伯爵の所で要らないと言われたらピピデで引き取ろう。


 俺は部屋とクローバー伯爵の庭を繋げた。


「今から姿を現します。声を上げないで」


 俺は姿を現した。


「助けか。助けなのか」

「早く助けて」


「静かに」


 俺は牢の鉄格子を手でちぎった。

 そして、捕らわれた人達をクローバー伯爵の下に連れて行った。


「ほう、生贄の儀式ですか。あなた達は罪人ではありませんよね」

「罪なんか犯していない」

「悪い事はしてないわ」

「神に誓えるわ」

「調べてくれたって良い」


「シゲル様、一つ不正を潰せましたね。王もお喜びになるに違いありません」

「まだ、負の魔力の濃い所が幾つかあるんだよな」

「似たような所がまだあると」

「行って来る」


 俺はいくつも屋敷で生贄の証拠を見つけた。

 貴族の私兵に見つかったりしたので、貴族共々眠らせた。


 召喚陣の実験場は5箇所あった。

 これで、王都では全部かな。


 クローバー伯爵の庭には生贄をやってた貴族が捕縛され集められた。


「何の権利があって我々を裁く」

「そうだ。そうだ」


「だまらっしゃい。王から直接この件に関する司法の権利をもらいました」

「何の証拠がある」


「俺の出番かな。懇願力よ、この男に真実を述べさせたまえ」

「私は召喚陣を再現すべく、生贄で実験を行いました」


「魔法による自白は認められない。無効だ」

「あー、うるさいな。いい加減認めろよ。じゃあこうだ。懇願力よ、この者が生み出した負の魔力をこの者に付与したまえ」

「ぐがぁ」


 肉がただれ落ち、貴族がゾンビ状態になった。

 懇願力を武器に使ってしまった。

 でも、死んだのは自分で作り出した負の魔力だよな。

 自業自得だよな。


 とりあえず浄化と。

 元貴族の不浄の者が消えて行った。


「喋る。何でも喋る。お願いだ。あんな殺され方はされたくない」

「大変結構です。全て喋ってもらいますよ。シゲル様、ありがとうございます。例の件進めておきます」


 胸糞悪い事件だったな。

 帰って子供達の顔が見たくなった。

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