第86話 鷹の爪とポテトチップス

 あれっきり、新型センシャは出て来ない。

 弱点を克服する為に技術開発の真っ只中ということだろう。

 俺は気がかりだった南の偵察に行く事にした。


 ついでだからデュラ国にお土産を持って行こう。


「もしもし、リョクテです」


 俺は通信の魔道具で連絡を取った。


「今、王は執務中です。予定を聞いてまいりますので、しばらくお待ちを」


 魔道具に出た男性が取り次いでくれるらしい。

 少し待たされた。


「マーティンである。待たせたな」

「仕事中にすみません。お土産をお届けに参ります。鷹の爪とポテトチップスです。では」


 よし、鷹の爪とポテトチップスを持ったな。

 音速で飛ばして行こう。

 デュラ国の宮殿まではすぐに着いた。

 風魔法で包んでお土産を撃ち込む。


 お土産はこれで良いや。

 更に南だな。

 デュラ国を抜けると段々と樹が少なくなった。

 更に進むと草も生えなくなり、完全に砂漠になった。


 この先も砂漠かな。

 更に進むと荒野だった。


 低木はねじ曲がり、ほとんど枯れ木だ。

 唯一動く物と言ったら、不浄の者だ。


 それしか見当たらない。

 どこまでも続く赤茶けた地面と不浄の者。

 ピピデの国も荒廃があのまま進んでいたら、こんな光景になっていたのだろう。

 そして、それは拡大していき全ての国を飲み込む。

 恐ろしい事だな。

 ここは滅びの未来って訳だ。


 肝心の邪悪だが見当たらない。

 しかし、この場所は強い不浄の者が居そうだ。


 砂漠を越える気はないようだ。

 この場所はデュラ国の浄化が終わってから、最後に浄化に取り掛かるとしよう。

 一応、風の精霊には砂漠を見張って貰えるよう頼もう。


Side:デュラ国の国王


 侍従が一人執務室にやって来た。


「ピピデの王が通信の魔道具を使って呼び掛けて参りました。いかが致しましょう」

「今ちょうど手が空いたところだ。私が出る」


 通信の魔道具のある部屋に急ぐ。


「マーティンである。待たせたな」

「仕事中にすみません。お土産をお届けに参ります。鷹の爪とポテトチップスです。では」


 通信はあっと言う間に切れた。

 鷹の爪ともうひとつは何だ。

 ぽてっと血っぷすか。


 まあよい。届けば分かる。

 程なくして中庭が破壊され土産が届いた。

 毎回の事なのでこの事態にも慣れた。

 顔を青くする者などいない。


 土産を見る。

 鷹の爪は赤い野菜だった。

 確かにこの形は鷹の爪だな。

 血に染まった鷹の爪をイメージしているのであろう。


 もう一つのぽてっと血っぷすは何だ。

 見たことが無い食べ物だ。


「毒見を呼べ」

「はい、只今」


 毒見がやって来た。


「食え」


 毒見はぽてっと血っぷすを食って、血を吹いて倒れなかった。

 何だつまらん。


「どうだ。毒か」

「大変、美味でございます」


 ふん、ふだん宮廷料理を食っているこの男が言うのなら美味いのだろうな。


「ぽてっと血っぷすを料理人に食わして同じ物を作らせろ」

「はい、そのように」


「毒見、その赤い野菜を食え」

「はい。ひー、ひー、ひー」


 こっちが毒だったか。

 毒を持ってくるとはな。

 だが、鷹の爪が食べ物だとは言ってない。


 むっ、毒見が喘いでいるだけで、一向に倒れない。

 遅効性の毒か。


「辛い。ひー。水」

「水を持って来てやれ」


 毒見が水を含んでまた喘いだ。


「ひー、ますます辛くなった」


 全く、辛いぐらいで、大げさな奴だ。

 毒見はひとしきり喘いでようやく言葉を発した。


「はー、はー。辛い事といったら物凄いです。毒に匹敵します」


 料理にほんの少し入れれば良いのだろう。

 香辛料にありがちな事だ。


「香辛料の一種らしい。鷹の爪を料理人に渡して使用法を研究させろ」

「はい」


 さて、面白い見世物だったが、執務に戻るとしよう。

 執務に戻り、ティータイムとなった。

 皿に盛られたぽてっと血っぷすが出て来た。

 ふむ、簡単に作れたのだな。

 私はなんの疑いもせずにそれを口に入れ噛み砕いだ。


 むっ、破片が口の中に刺さる。

 なるほど本来のぽてっと血っぷすとはこのような料理なのだな。

 食べると口の中が血だらけになるのでこの名前なのだな。

 だが、味は美味い。

 癖になる味だ。

 酒が飲みたくなる味でもあるな。


 異国の文化もたまには良いものだ。

 いい刺激になる。

 食べると口の中に刺さって、おまけに手が止まらない。

 ぽてっと太って、口の中に血っぷすなのだな。

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