第75話 ポテチ
ピピデの民の子供達は良く働く。
スプーンとフォークに俺の名前を掘らなくてもと思ったが。
子供達が鋼鉄のペンでシゲル神の名前を食器に書いていく。
一日金貨1枚を超える稼ぎを出すとやる気になるのも頷ける。
奥さん連中はフライパンや鍋の取っ手にシゲル神と彫刻刀で彫っている。
こちらも金貨1枚を超える仕事だ。
そうそう、ピピデの民に向けたサバル国からの食器や調理器具の輸入は止まった。
それどころか逆に輸出している。
俺は最近になってヒースレイ国であぶれている野菜をサバル国に売ろうと思った。
ええと、ジャガイモが多いな。
「ランドルフ、良い所にきた。ジャガイモ料理を一緒に考えてくれ」
「なんだ急に」
「この土地のジャガイモ料理って何がある?」
「芋だとスープのたぐいと焼いたのと塩ゆでだな」
「普通だな。揚げ物はないのか?」
「から揚げは美味いな」
うーん、ぱっとしないな。
なんだろ琴線に触れない。
「変わった物とかないのか。こう芋を使った名物料理みたいな物が」
「それならラクーのホワイトシチューだな」
「それも普通だ。驚きがない」
「お得意の現代製品無双はしないのか」
「おお、そうか。何を難しい事を考えていたんだ。そうだよ。日本になら普通にある物を売れば良い」
「閃いたようだな」
「魔獣の脂身が余っていると言ってたな」
「そうだな。余っている」
「よし、ポテトチップスを作ろう。ふふっ、ホームセンターのかき氷器を使えばジャガイモのスライスなんかわけない。前に作った事がある」
俺はスキルでかき氷器を買った。
ジャガイモをセットして、クルクル回すとスライスされた芋が出て来るって寸法よ。
後はこれを油で揚げて塩を振れば完成だ。
「ほう、どれどれ。これは美味いな。酒のつまみに良さそうだ」
ランドルフがポテチをつまんで感想をもらした。
「久しぶりにポテチ食ったな。やっぱり美味いや」
ヒースレイ国の国境にポテチ工場を作ろう。
そして、サバル国に出荷だ。
青のりが欲しいな。
チキンコンソメ味とかも再現したい。
やばい食いたくなってきた。
懇願力を使って召喚すればできるけど、我慢だ。
土地の人間に味の開発は任せよう。
次の日。
そういえば、野菜ってフリーズドライとかやってたな。
どうやるんだ。
「凍らせて乾燥させる。フリーズ、ドライ」
おっ、氷魔法と乾燥魔法の合わせ技で出来たな。
お湯を掛けて戻してと。
うん、こんな味。
けっして美味くはないが食える。
カップ麺が食いたいな。
麺はともかくスープがな。
俺の料理の腕では、如何ともし難い。
スーパーマーケットスキルが欲しい所だ。
無い物は仕方ない。
ありゃ、ホームセンタースキルでカップ麺が買える。
じゃあさ。
魔法で作ったフリーズドライの野菜をトッピングでつけて、野菜ましましラーメンはどうか。
行けるな。
一緒に売り出そう。
「ランドルフ、居るか?」
俺はランドルフの家を訪ねた。
「何だ」
「野菜を長い間保存する方法があるんだ」
「ほう、興味深いな。塩漬けではないよな」
「乾燥しながら、凍らせるんだ」
「無理だな。人間には出来ない」
ああ、精霊の魔法操作能力ありきになっていたか。
待てよ。
ホームセンターの木片に魔法を掛けて、懇願力で固定すれば。
やってみるか。
「できたな。フリーズドライの木片だ」
「痛たた。ヒール」
ランドルフがフリーズドライの木片に触って指を痛めた。
低温も危険だな。
箱を作ってそこに野菜を入れて一定時間たったら出来上がりってのが望ましいな。
箱には温度遮断をつけておこう。
フリーズドライの機械が出来た。
よしカップ麺と共に売り出すぞ。
そして後日。
「乾燥野菜はあまり売れませんな。カップ麺だけお願いします」
商人にそう言われた。
「何でだよ」
「考えたら分かりますよ。トッピングするなら、生の野菜を炒めて乗せる。そのほうが美味しい」
「美味い事には手を抜かないのか」
「カップ麺の販売価格は銀貨1枚を超えてます。富裕層しか食べませんな」
「くそう、負けた気分だ」
そうなんだよな。
新鮮な旬の野菜に勝る物はなかなか無い。
素材の美味さには勝てない。
そうだ。
フリーズドライって汁物もいけるな。
スープを固形にして売り出そうか。
それなら不味い具の乾燥野菜も食ってくれるかも。
そこまでしなくちゃ駄目か。
農家の仕事ではないな。
めんどくさくなった。
なんかもうどうでも良くなったな。
ポテトチップス工場をやっている人間に、後は丸投げしよう。
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