第70話 コンクリート
また、ランドルフからサバル国への輸出品の相談をされた。
そんなに簡単にアイデアが出たら、世話はない。
しょうがない、畑仕事をして考えるか。
鍬で大地を耕す。
サクッと鍬が突き刺さるとなんか今日も良い事ありそうな気がしてくる。
良い土を耕すってのは気持ちの良いもんだ。
ガキッと鍬が何かに当たって止まる。
うわ、気分悪。
当たった物を掘り出す。
何だ、ただの石かよ。
そう言えば石も売り物になる。
大草原に石切り場は少ない。
輸出する量は賄えない。
ないなら作れ。
セメントを使おう。
セメントで固めてから輸出したんではかさ張るから、セメントその物を輸出しよう。
「ランドルフ、輸出品のアイデアが出たぞ」
「それは助かる」
「セメントだ。セメントに砂利と水を混ぜれば、数時間後には岩の硬さで固まる」
「夢のような商品だな」
「そうだろ」
「だが、問題がある。それで砦を作られたら困る」
「そうなったら。放っておけよ。こちらからは攻めないんだろう。サバル国の国内に砦を作るのなら好きにやれば良い。俺達の領土に入ってきたら、精霊砲の餌食だな」
「石やレンガで作られても同じ事か」
「心配しても限がない」
「よし、セメントを輸出しよう」
セメントを輸出してから、だいぶ経った。
ランドルフの言っていた事が正しかったようだ。
砦を作ったらしい。
攻めて来たら精霊砲で一撃だな。
Side:サバル国の鍋職人
俺は調理器具を作る職人だ。
最近物騒になってきた。
それというのもピピデの民がセメントなんて言う物を輸出してきたからだ。
セメントと水と砂利を混ぜれば岩にも負けない物が出来上がる。
ピピデの連中は馬鹿か。
そんな物を輸出すれば砦を作るに決まっている。
ピピデを攻めようという機運が高まっているが、俺はよした方が良いと思う。
だってセメントはピピデの商品だろ。
奴らも同じ物を持っているって事だ。
「訓練が終わって、いよいよ出撃だ」
お隣さん釘屋が俺の所に顔を出した。
「やめた方が良いと思うがな」
「俺達が作った砦を見たら考えを変えるさ」
聞く耳を持たないようだ。
「そうか、怪我をしないようにな」
お隣さんは意気揚々と遠征に出た。
ピピデの連中も馬鹿だが、ピピデを攻めるという貴族も馬鹿だ。
利口な奴は喧嘩しない。
『争いは、同じレベルの者同士でしか発生しない』とはよく言ったものだ。
この手の争いはなくならない。
しょうがないんだろうな。
Side:サバル国の元釘職人
俺達はピピデの国の国境まで進軍するように言われた。
意気揚々と槍を担いで俺達は歩く。
俺達を見送る住民の眼差しはまたかという物。
他の国との小競り合いなど何度も起こっているから珍しくもない。
「釘屋、靴に穴が開いた。予備の靴は無いか」
「屑鉄屋、それならいい物がある」
俺は靴底の皮を剥がし、新しい皮を当てて細い釘を打って固定した。
「すまんな」
「何、良いって事よ。釘なら腐るほどある」
「腐らない金属なんて反則だよな」
「それを言わないでくれ。気分が悪い」
「あの金属。調べたら合金だったらしいぜ」
「ほう、分析が進めばあれが作れるってのか」
「まあな」
「でも秘密が分かるまでの間、俺達はおまんまの食い上げだ」
「そうだな。ここはひとつピピデの国に攻め入って俺達が秘密を暴いてやろうじゃないか」
「よし、目的がまた一つ出来たぞ」
足が棒になるほど歩き、国境近くの街に到着した。
街の人はガリガリに痩せて食事が足りてないように見えた。
「釘屋、この街が貧しいのもピピデの民のせいだ」
「許せん」
「大荒野、今は大草原だが、そこに侵入すると追い払われる。緑の恵みを分けてくれてもいいじゃないか。そう思うだろ」
少し引っ掛かりを覚えた。
大荒野だった時はこの街はどうだったんだろう。
俺はそのことを心の奥底に仕舞い込んだ。
なぜかその事を言うと不味い気がしたからだ。
「そうだな」
「そうだよな。貴族様の言う事は正しい」
そうだ。
正義は俺達にある。
あるが、少しモヤモヤした。
この気持ちは戦いに決着がつけば分かる気がした。
俺はモヤモヤを振り払う様に、隊列を組んで元気に掛け声を上げながら進軍した。
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