第21話 茶摘み
「あう」
赤ん坊が指をしゃぶる。
「えあ」
赤ん坊が寝返りを打つ。
「あむ」
赤ん坊が手を叩く。
「だぁ」
赤ん坊が俺に笑いかける。
「へっ」
赤ん坊が声を上げる。
「ぶう」
口をへの字に結ぶ。
全ての動作が愛らしい。
子供部屋というか子供テントにお邪魔している。
子供って可愛いね。
六人も並ぶと可愛さで異空間が出来るような気がする。
「よしよし、パパはお仕事に行ってきますよ」
何時までも眺めていたい気持ちがあるが、仕事もしないでだらだらしていたら、父親の威厳も何もあったもんじゃない。
聖域が更に広がっているたぶん3キロぐらいはあるだろう。
このぶんだと聖域が湖まで届くのも時間の問題だ。
ピピデの民用の畑も順調だ。
追加で200組の野菜の苗を植えた。
その数なんと千2百本。
こんなに育ててどうするのか尋ねたら、出荷して外貨を稼ぐそうだ。
木材がもの凄く高騰しているらしく、家具を作るのも一財産みたいだ。
稼いだ外貨で木材を輸入するらしい。
聖域には自然に生えた樹が何本かあるが、ピピデの民はそれを大事にしていた。
畑の真ん中に生えているのに引き抜かないんだからな。
樹が金貨に見えるのだから仕方ない。
◆◆◆
マクシリアの精霊力でお茶の樹が収穫できるようになっていた。
緑茶飲みたいな。
今日は茶摘みと行こうか。
丁寧にお茶の葉をハサミで切り落とす。
こんなんじゃ何時までたっても終わらない。
途方にくれていたら、大精霊達が手伝いにきてくれた。
七人でやれば2本のお茶の樹などあっという間だ。
籠一杯にお茶の葉が摘めた。
後は蒸して、揉んで、乾かすだけだ。
お茶の葉を蒸すと新茶の良い香りが辺りに漂う。
さて後は揉むだけなんだけど、熱いんだよなこの作業。
まだやった事が無いがおばあちゃんが昔、青年団で作った時に熱くてたまらなかったと話していたのが印象に残っている。
覚悟を決めてやるか。
「あつっ、あちゃちゃちゃ」
「私達が代わりにやるの」
「精霊ってのは暑さを感じないのか」
「そうなの。任せるの」
「頼むよ」
エーヴリンがお茶の葉を揉むと、籠一杯あったのが一握りできるんじゃなかろうかというぐらい少なくなる。
「乾燥を頼む」
「ドライなの」
更に小さくなるお茶の葉。
お茶が高いなんて言ってごめん。
手間が掛かっているんだよな。
ズルしたって大変なんだから、普通にやるともっと大変だ。
◆◆◆
「ランドルフ、居るか?」
俺はランドルフのテントを訪ねた。
「父さんなら、畑に出ています。呼びましょうか」
「いや良い。お茶が出来たんでおすそ分けに来ただけだから」
「ありがとうございます。お礼に魔獣の干し肉を持っていって下さい」
「ありがたく頂くよ」
そして、数時間後。
「なんて物をくれたんだ」
ランドルフが血相を変えて飛んで来た。
「何? 何か不味かった」
「お茶だよ。あのお茶を病人に飲ませたんだ。そしたら病気が治ったんだぞ」
「と言われても、良かったとしか」
「どれぐらいの価値になるか見当もつかん」
「なんなら量産する?」
「浅慮な者なら飛びつくのだろうが、こんな物が世に出たら戦乱を招きかねん」
「ふーん、うちうちで消費する分には構わないと思うが」
「いや、上手く使うべきだろう。幸いピピデの民は各国に散らばって住んでいる。秘密裏に売り捌き、戦乱を収める工作をすべきだ」
「俺はどっちでもいいけどな。聖域も広がったしお茶畑を作るのも良いと思っている」
「よし、決めた。ピピデの民は戦乱を収める民となろう」
「なら、その代りに育児の手伝いがほしい。マクシリアが六人を面倒みて大変そうだからさ」
「子供を産んで子供が独り立ちして、手の空いている主婦を何人か行かそう」
「経験者なら心強いよ」
俺は子供部屋にいるマクシリアを呼んで手伝いがくる事を伝えると共にお茶の樹の成長を頼んだ。
「【国家園】オン。お茶の苗100本ゲット」
1,639円二株×50で81,950円なり
「ランドルフ、手分けして植えよう」
「おう、手隙の者を呼んでくる」
お茶畑があっと言う間にできた。
「いきますよ」
マクシリアが手をかざして、お茶の苗を成長させていく。
ピピデの民がその様子をみて拝んでいる。
精霊力が宿ったお茶は薬になるのだな。
聖域の特産品が一つできた。
売るのはピピデの民だけどな。
「私もお情けを下さいませんか。妖精達の可愛い寝顔を見ていたら私も欲しくなりました」
一仕事終えたマクシリアそう言われた。
こんな日がくると予想していた。
開き直るしかないか。
「六人も七人も変わらないだろう。どんと来いだ」
お茶摘みを致してしまいました。
ついでにお茶揉みも。
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