農家な俺は大農園ならぬ大悩艶~召喚されてチートなのは俺ではなく野菜の苗だった~

喰寝丸太

第1話 召喚される

 急に足元に魔法陣が出て俺は焦った。

 召喚の物語はろくな物がないからだ。

 最悪だと生贄。

 かなり悪い方だと奴隷。

 良い方でも強制勇者。

 とにかくろくな物じゃない。


 視点が切り替わるように風景が変わった。

 俺が居た田園地帯とは真逆の荒れ果てた荒野だ。

 砂嵐が吹き荒れ視界はもの凄く悪い。


 気を落ち着かせる為に自分のプロフィールを思い出してみた。

 俺は緑手りょくて しげる、28歳。

 家庭菜園が趣味というより義務のサラリーマンだ。

 家は元々農家だったが食っていけなくなり廃業。

 だが、採れたての野菜は美味い。

 一度、味わうとスーパーの野菜は食えたものじゃない。

 俺は家族に半ば強制され家庭菜園をやっていた。


 俺はライトオタクだけど、召喚されるとはな。

 荒野に召喚されたという事は召喚事故のパターンか。

 最初にやる事は。


「ステータス・オープン!」


――――――――――――――――

名前:シゲル・リョクテ

魔力:0/0


スキル:

 なし

――――――――――――――――


 出たな。

 出たのは良いが、しょぼい。

 魔力0のスキルなしと来たもんだ。


 ゴウゴウと音を立てる砂嵐に混じって遠くで猛獣の吠え声が聞こえる。

 詰んだ。

 生還絶望コースだ。

 ダンジョンの底に召喚されるのと俺の状況とどっちが酷いんだろう。

 しょうがない持ち物の確認だ。

 きゅうりとナスとゴーヤの苗一本ずつと肥料一キロと移植ごてと腰に装備したハサミ。


 うん、詰んだな。

 短い人生だった。

 心残りは召喚の衝撃で全てふっとんだ。

 そうだ、この野菜の苗を植えよう。

 荒野では100%枯れるだろが、一秒でも長生きさせてやりたい。

 俺は固い土を掘り返し、肥料を撒き、野菜の苗を植えた。

 よし、心残りはもうない。

 即席の畑の真ん中で寝るか。


 即席の畑を作った疲れもあって俺はすぐに眠りにいざなわれた。


  ◆◆◆


 まぶたを刺すような光で俺は目覚めた。

 砂嵐は既に止んでいる。

 辺りを見て驚いた。


 野菜の苗が10メートルほどの巨木になっていた。

 さすが異世界。

 野菜にはそれぞれ2メートルほどの実が一つずつ生っている。

 その実になぜか神聖な物を感じて食べるのはためらわれた。

 手ごろな葉をちぎり茎から出る水分をすする。


「やんっ」


 空耳か。

 ずしんずしんと重たい足音がして、虎に似た生き物が近寄ってきた。

 死んだな俺。

 どうみても象ぐらいの大きさがある。

 移植ごてなんてのは針みたいなものだ。

 それを両手でしっかりと構える。


 主人公特性で不思議パワーとか目覚めないだろうか。

 駄目だな。

 そんな、都合よくいく訳もない。


「野菜達よ、俺の分まで元気に生きてくれ!」


 それが合図になったのか虎が俺に襲い掛かってきた。

 俺は移植ごてをおもいっきり突き出した。

 その時、背後から意味不明な言葉が聞こえる。


「チニスクチモモイス」

「セラニトラミモニトカ」

「テチカイスソナカカイス」


「なに、援軍か。いつの間に」


 魔法が背後から飛んできて、虎は打ちのめされミンチになった。

 グロイなと思ったら地中から根がでて虎の残骸を引き込んだ。


 背後を振り返り、援軍を確認すると美女が三人。

 一人目は緑色のドレスを着てドレスには宝石がちりばめられていた。

 肌の色は白く濃い緑色の目と濃い緑色の髪をしている。

 アクセントのようにアホ毛があった。

 体型はスレンダーだ。


 二人目は光沢のあるフリルのついた緑色のドレスを着ていた。

 肌はやはり白く黄色い目と濃い緑色の髪をしている。

 やはりアホ毛がある。

 体型はグラマーだ。



 三人目は光沢のある紫のドレスを着ていた。

 褐色の肌で紫の目をして紫の髪をしている。

 トゲが生えたブレスレットをしているのが特徴的だ。

 体型はグラマーで安産型だ。


「危ないところを、助かったよ。ところでどちら様で」


 俺は逃げる方法を探しながら、言葉は通じないだろうなと思ったが、話し掛けた。

 召喚主の可能性があるからだ。


「それには私が答えよう」


 おお、日本語だ。

 目の前に三人とは別の女に似た存在がいる。

 なぜ存在かというと人間とは思えないからだ。

 放っている雰囲気が尋常じゃない。


「説明頂けるのなら嬉しいです」

「まずはおめでとう」


「なにがですか?」

「あとで色々分かると思うから、一つだけ。大精霊の誕生、おめでとう」

「へっ、大精霊?」

「その三人の事だ」

「大精霊なんですか!?」

「その通りだよ。精霊の産まれ方はだな。清浄な魔力をたっぷり吸った植物に、死んだ高潔な人間の魂が宿ると精霊になる」


「ここは清浄な魔力に満ち溢れているのですか?」

「逆だな。負の念に汚染された魔力が特に濃い場所だ」

「えっと、ならばどうして?」

「野菜の苗が育った所はどういう場所だ」

「普通の畑だと思いますが」

「そこで殺人などがあったと思うか」

「いや普通ないでしょう。犯罪すらまれだと思います。ああ、地球で清浄な魔力をたっぷり吸ったと」

「そうだな」


 普通チートは召喚された人間が持つものだろう。

 チートが欲しい。


「大精霊を産みだした功績でスキルを授けてやろう。ただし、お前に関係無い物はだめだ」


 何が良いかな。

 戦いは大精霊がやってくれそうだ。


「衣食住をなんとかなりませんか」

「決まったようだな。異次元通販スキル【サケタの種】と【国家園】。それと【名前ジェネレータ】を授けよう」


 【サケタの種】と【国家園】は園芸用品を扱っている通販サイトだ。

 【名前ジェネレータ】は俺がゲームのキャラの名前に困った時にお世話になった。


「【名前ジェネレータ】?」

「必要になるから貰っておけ」

「それなら、もう一声。異世界の言葉を」


 こんなに美人な女の子に囲まれて、お話ができないのはつらい。


「そのくらいならいいだろう。私は女神ファルティナ。用があれば呼ぶが良い。下らない事で呼ぶなよ」

「はい、ファルティナ様」


 ファルティナ様は光になって消えた。

 さあ、スキル検証するぞ。

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