『1話完結!』僕に美少女幽霊の彼女ができたわけ!?〜可愛い彼女とイチャイチャするまで〜

熊月 たま

第1話 僕に幽霊の彼女ができたわけ!?

 薬の匂い、機械の音、真っ白な部屋。

 僕が目を覚まして感じたことはそんなことだ。そのことから、ここがどこなのかはわかった。だが、いつからここにいたのか、なんで僕はここにいるのか、そんなことを考えても中々思い出せなかった。


「僕はなんでここにいるんだろう」


 改めて自分の体を見ても、傷らしきものは見当たらない。それがまた不思議だった。


「ここは病院なのに、怪我もしてないのに入院してるのはおかしなことだよね。でもなんで入院してるかなんてわからないし・・・」


 僕は足りない頭でしばらく考えていた。考えていると何か視線を感じるような気がした。恐る恐るそちらを見ると、とても綺麗な人が足を組んで椅子に座っていた。


 なんで言えばいいのかな、肌は雪のように白く、髪は腰ほどまで伸ばしていて、まるで黒曜石のような輝きを放っている。瞳は真っ赤に燃える炎のように見えるが、鮮血な血のようにも見える。彼女が着ている服はセーラー服と呼ばれるもので、それが彼女の美しさを一層際立たせた。ただ、この少女とは初めて会った気がしなかった。


「えっと、君はいつからそこにいたの?」


 僕の問いかけに彼女はゆっくりと腰を上げる。スタスタと迷いなくこちらに歩いてくる様は、まるでモデルがランウェイを歩くかのようだった。


 僕の前で立ち止まると、彼女は少し考えながら言葉を発する。


「そうね、どのくらいかしら。あなたがここに入院してからだから、大体五日ほどかしら?」


 そう言って首を可愛らしく傾げていたが、今の僕にはそのことがどうでも良くなるほど焦っていた。


「え?僕って五日もここにいたの?」


「ええ、そうよ。結構長い眠りみたいだったけどあなたは目が覚めてよかったわ。それに、あなたは私のことが見えてるらしいからそれもよかったわ」


「え?見える?」


 僕には彼女の言ってることが理解できなかった。


「それは近いうちにわかることだから今はいいわ。ところで体に異変はあったりする?」


 僕は自分の体をペタペタと触って確認してみる。


「ううん、大丈夫。痛いところはないし、特に問題はなさそう」


「そう、それならよかったわ」


 僕はずっと疑問になっていたことを聞こうと口を開く。だが、ガラガラっと扉が開く音がした。そちらに顔を向けると、白い白衣のようなものを着た眼鏡の男性が入ってきた。その隣には看護婦さんらしい人もいる。


「お、目が覚めたようだね。夏樹君、体調の方はどうかな?どこか悪いところはないかい?」 


 優しげな表情で問いかけてくる眼鏡の男性、もといお医者さんに対し、僕も表情を崩して受け答えする。  


「はい、特に問題はありませんよ」


「そうかい、ちょっと聴診器当てるから上の服をまくってくれるかな?」


 そう言って僕の胸や背中などに聴診器を当てる。


「うん、大丈夫そうだね。とりあえずまだ安静にしててね。何があるかはわからないから。それと、用事などがある場合は気軽にナースコールを使ってね」


「わかりました。何から何までありがとうございます」


「いいんだ、これが私の仕事だからね。それと、ここに自分がなんでいるのかはわかるかい?」


「いえ、わからないです。なんでですか?」


 お医者さんは難しそうな表情をした後に、にこりと笑った。


「いや、それは自分で思い出すべきだよ。ゆっくりでいい、焦らずね」


「わかりました」


 お医者さんとの話が終わると、タイミングを見計らっていたのか少女が横から話しかけてきた。


「ナースコールは必要ないわ。何かあったら私に言いなさい」


 うーん、でもずっとこの少女が一緒にいるわけではないし。僕はとりあえずお医者さんに対して昼間は大丈夫ということを伝えようと思った。


「あの、多分昼間はナースコールは使わなくて大丈夫だと思います」


 その言葉を聞いたお医者さんはなぜそんなことを言ったのかわからないという顔をする。


「どうしてだい?何か手伝いがあった方が楽だろうに」


「いえ、確かにそうなんですけど、そこにいる子に手伝ってもらおうと思いまして」


 僕がそう言ったときにお医者さんはとても驚いたような、それでいて困惑しているような表情をする。


「それはどういうことだい?今この部屋にいるのは私と看護婦の彼女と夏樹くんしかいないじゃないか。一体君には何が見えるんだい?」


 僕は途端に寒気がした。看護婦さんを見ても首を振るだけ、僕は少女を見る。


「ん?私がどうかしたの?」


 キョトンとした表情がとても可愛らしいが、今はそれどころじゃない。


「あの、お医者さん。僕の勘違いでした。すみません」


「なんだ、びっくりしたじゃないか。あまり驚かせないでほしいな」


「すみません」


 僕はとりあえず頭を下げる。


「とりあえず私たちは仕事に戻るけど、何かあったらすぐに呼んでくれて構わないからね」


 そう言ってお医者さん達は僕のいる病室から出ていった。


「ねえ、君は一体何者なんだい?お医者さん達には見えていなかったけど」


 少女はなぜか不思議そうな顔をしていた。


「あれ?いってなかったっけ?私はついこの前死んだのよ。いわゆる幽霊ってやつね」


「え、ええええええええええ!」


 にこりと微笑んだ少女はとても死んでいるようには見えなかった。


「そんなに驚くことでもないと思うのだけど」


「いや、驚くでしょ!なんでそんな重要なこと言ってくれなかったのさ、お陰でお医者さんには変な目で見られたじゃないか」


「それに関しては謝るわ。私も幽霊になってから日が浅いからまだ実感がないのよ」


「そうなんだね」


 僕と少女の間に会話はなくなり、少しの間静かな時間が続く。


「そういえば夏くんはここにいるのがなんでなのかわからないのよね?」


「ん?夏くん?」


「別に呼び方くらいいいでしょ?それで、思い出せないの?」


「う、うん。それがさっぱりなんだ。どこか本の大事なページを消されたみたいに、そこだけが空白なんだ。それがなんだかムズムズするというかなんというか」


 その答えを聞いた少女は「そう」とだけ答えてまた椅子に座った。


「そういえば、君の名前は?ずっと君って呼ぶのはなんだか嫌なんだよね」


「あら?そういえばこれも言ってなかったわね。私の名前は小野寺深冬おのでらみふゆよ。改めてよろしくね」


「うん、僕は海田夏樹かいだなつきだよ」


「うん、知ってるわよ」


 うん、なんで知っているのだろうか。まあそれはいいんだけど。


「もしかして小野寺さんは僕がここになんでいるのか知ってるの?」


「まあ、知っているわよ」


思わぬ答えが返ってきて僕は目を見開いた。


「あ、あと。私のことは深冬でいいわ。小野寺って長いでしょ?」


「じゃ、じゃあ深冬さんで」


「うん、まあいいわ。それで、あなたがなぜここにいるかを知りたいのよね?」


「うん、そうなんだ。その記憶がどうにも思い出せなくて」


 その言葉を聞いた深冬さんはとても真剣な表情になってから口を開いた。


「はっきり言うと夏くんは自力でここにいることを思い出すことはできないわ」


はっきりとそのことを告げられ、僕はまたも困惑した表情をする。


「それは、そうかもしれないけど・・・」


「まあ答えを言っても面白くないからヒントだけを言うわね。そうすれば多分答えに辿り着けると思うから」


「なんだかクイズみたいだね」


「そうでもしなきゃこんなこと、やってられないわ」


 そう言ってから深冬さんは人差し指をピンと立てた。


「ヒントその一、うーん、そうね。帰り道ってのはどうかしら?」


 ヒントを聞いても僕はピンとこなかった。


「うーん、なんだろ。帰り道、帰り道・・・」


「わからなそうだから二つ目のヒントいくわね」


 意外と深冬さんは待てない性格なのかもしれない。


「ヒントその二、交差点。これでだいぶわかってきたんじゃないかしら」


 僕は必死に考える。


「えっと、交差点、交差点・・・」


「じゃあこれが最後ね、ヒントその三はトラックよ」


「あっ!」


僕の頭の中で最後のパズルのピースがカチャリとはまった音がした。



★ ★ ★



 思い起こされるのはあの日の記憶。


 今日もいつも通り一人で学校から帰宅していた。


「あー、疲れた。体育があったから余計に疲れたなぁ」


 僕は帰り慣れた道をいつも通り歩いていた。そう、いつも通りに。

 だが、この時の僕はこれからあんな事になるとは微塵も思っていなかった。

 僕は赤信号だったため、歩道で待っていた。自分ではしっかりと周りを見ていたつもりでも、実際にはしっかりと見えていなかったのかもしれない。

 僕は目の前の信号に顔を向けると、一台のトラックが猛スピードでこちらに突っ込んでくるのが見えた。

 僕はその時、「あ、これは終わったな」と思った。

 ただ、次の瞬間正面からではなく、横から物凄いスピードで何かがぶつかった。僕はただ、その衝撃に流されるままに吹き飛ばされた。しかし、吹き飛ばされている間はなぜか周りのスピードがものすごく遅くなっている気がした。これは時間?が遅くなっていたのかな。

 僕は衝撃があった方向に首を捻った。


「!?」


 すると、そこには黒髪のものすごく綺麗な人が突き飛ばしたような体制で止まっていた。よく見ると口元が少しだけ動いていた。おそらく注意深く見なければ気が付かないほどに。

 その言葉はこう紡がれていた。


『よ・か・っ・た』


と。


 その言葉を理解した瞬間、遅くなったスピードは普段通りに戻った。そして、目の前でその少女はトラックに跳ねられた。

 それは物凄い音だった。ボーリングの球を思い切り車体に当てたような、それでいて卵を握りつぶした時のような生々しい音が僕の耳には届いた。


「あ、あぁぁ」


 目の前にはピンクに近い液体と赤黒い液体がじわじわと広がっていた。そこから鉄のような匂いが充満し、僕の鼻腔を刺激する。

 その光景を見て頭が真っ白になった。何がどうなったのかわからない。いや、違う。僕は目の前で起きたことを信じたくなかった。だから頭が真っ白になったんだと今になって気がついた。

 それから意識が朦朧としていき、次第に遠くに聞こえるサイレンの音を聞きながら僕は静かに目を閉じたのだった。



★ ★ ★



 僕の目から涙が溢れてきた。いや、溢れていた。いつから泣いていたのかはわからない。深冬さんは静かに僕の頭を撫でてくれる。

 どのくらい時間が経ったのかはわからないけど、僕はとりあえず落ち着くことができた。


「あの時助けてくれたのは深冬さんだったんだね」


「ええ、あの時の私はあなたを助けるため必死だったわ」


 そこでふと疑問に思ったことを聞いてみる。


「こんなことを言うのはいけないことなのかもしれないけど、なんで僕を助けてくれたの?」


 少しだけ考える素振りをしてからゆっくりと深冬さんが話し始める。


「あれはいつだったかしら。確か中学三年生の冬だった気がするわね。そのときに私は不良達に絡まれていたの。それも数人に」


 僕はそれを黙って聞く。


「その時はとても不安だったわ。怖くて足は震えていたし、涙だって流れていた。もう自分は助からないんだって薄々感づいてた。でも、そんな私の前に一人の男の子が立ちはだかってくれたわ。その男の子は私と同じ歳くらいなのに不良達に物怖じしないで立ち向かった。と言っても警察を呼んだぞって大きな声で言っただけだけどね。それでも私は見ず知らずの人を助けるために行動に移せることはとても凄いことだと思ったわ。もちろん、そのあと不良達は急いで何処かに逃げていったわ」


 そこで一息ついてからまた話し始める。


「私はあの時、恋をしたわ。初めてだった。こんなにも心が暖かくなるんだって初めて知ったわ。そう、あれが私の初恋だった。今もそれは続いてるわ」


 僕はなぜその話をされたのかわからなかったため、静かに問いかけてみる。


「その話をなんで僕にしたの?」


 その言葉を聞いてふっと笑ってから答えてみせる。


「それはね、助けられた相手が夏くんだったからよ」


「え?」


 僕にはそう言われても覚えがない。人違いではないか?そう思わずにはいられなかった。だって、こんなにも綺麗な人を助けたら覚えているはずだからだ。


「ふふ、確かにあの時は無理ないわ。だって今とは全然見た目が違うもの」


 そう言ってからどこからともなく赤色の縁の太いメガネを取り出してかける。そして少し俯いて猫背になり、横に流していた前髪を目の前に垂らす。


「あ!」


「やっと気づいたのね」


 そう、そこには確かに僕が助けた少女がいた。


「改めてあの時はありがとう、やっと借りが返せてよかったわ」


「いや、僕は当然のことをしただけだからそんなに気にすることはないよ」


 僕がそう言うと深冬は軽くため息をついた。


「あのね、その当然なことができない人がこの世には何人もいるのよ?できて当たり前なんてことはこの世に一つもないの。例えば挨拶だってできて当たり前なんてこと言ってるけど、実際に挨拶しない人なんてこの世界にはたくさんいるの。だから当たり前なんてない。その人だからそれができるのよ」


「うーん、そういうものなんだね」


「そういうものよ」


 そうして二人して同時に笑い合った。


「あ、ところでなんで僕のことを助けられたの?たまたまあそこを通ったみたいな感じ?それにしてはすごいタイミングがいいというか、なんていうか」


「え?違うわよ。夏くんがいつもあそこを行き帰りに使っているから私もあそこを通ってただけよ」


「ん?」


「え?」


 何気なく問いかけた答えが予想外すぎて少し頭の中がこんがらがる。


「えーっと、つまり深冬さんは僕のことをつけてたとか?」


「まあ言い方を変えればそうね」


 うん、言い方を変えなくてもそれはストーカーってやつじゃないかな?


「えーっと、さすがに休日とかはつけたりしてなかったよね?」


 深冬さんは何を当たり前なことを言っているのかって顔をしていた。


 その顔なら何も心配入らなそうかな。


「ええ、しっかりとつけてたわよ」


「いや、しっかりとつけてちゃダメでしょ!?」


「え、なんで?」


「いや、普通に考えてそれはストーカーってやつなんじゃないの?」


「いえ、気づかれなければそれはストーカーではないわ!」


 可愛らしく胸を張って言う深冬さん。


「いや、そんな自信満々に言われても・・・」


「いいじゃない、私は夏くんのことが大好きなんだから」


「うっ!」


 その笑顔はずるい。まさに美少女の特権だ。そんなキラキラした笑顔を見せられたら照れるじゃないか。


 僕はプイッと真っ赤になった顔を背ける。


「あれ?もしかして夏くん照れてるのかしら?照れてる顔も可愛いわよ?」


「う、うるさいよ。からかわないでよ」


「ふふ、いいじゃない。私はこうやって夏くんと話すのが夢だったの」


 そうやって話す深冬さんの姿はとてもキラキラとしていて輝いて見えた。


「その、ね。私は夏くんのことが大好きなの。だから、その。私と付き合ってください!」


 はえぇぇぇぇぇぇ!?


 突然のことに僕はまたもパニックに陥る。ど、どうして!?今の場面って告白する場面だったの!?


「え、えっと。その。ぼ、僕は」


 僕がおろおろとしていると不安そうに深冬さんがこちらを見つめてきた。それも上目遣いで。


「私じゃ嫌?幽霊なんかを彼女になんて、やっぱりできないのかしら?」


 そんな目で僕を見つめないで!そんな置いて行かれそうな子犬みたいなつぶらな瞳でお願いされたら誰でも首を縦に振ってしまうじゃないか!


「そ、その。僕は女性と付き合った経験なんてないから何をすればいいのかわからないよ?」


「全然構わないわ。だって、それは私たちがこれから一緒に経験していけばいいのだもの。だからね、私たちのペースで一緒に歩んで行こ?」


 僕はもう腹を括る。ここで後に引けば男が廃る!


「わかったよ、その、僕も、深冬さんのことが、好き、です。僕と付き合ってください!」


僕はベッドの上で頭を下げる。本当にお願いするって意味と赤くなった顔を隠すためだ。

 返事がなかなか返ってこなかったため、恐る恐る僕は顔を上げてみる。すると、涙を流して立ち尽くす深冬さんがそこにはいた。

 そして、勢いよくこちらへと飛びついてくる。


「わっ!?」


 僕は深冬さんが上に飛びついてきたため、ベッドへと仰向けに倒れ込む。


「これからはよろしくね。夏くん!」


今日一番のキラキラとした笑顔を見せてくれる深冬さん。


こうして僕に美少女幽霊の彼女ができたのだった。





〜あとがき〜

皆さんこんばんは。お久しぶりの人はお久しぶりです!

今回は初めて短編を書いてみたのですが、いかがでしたか?

個人的にはまあそこそこ書けてんじゃないかな〜なんて思ってたりもするんですけどね。笑

今回の話がよかったよー!だったり、もし、もし続編が見たい!って言う人がいれば、いいね、もしくはレビューなんてしてもらえると嬉しいです!

長くなりましたが、別の作品も執筆していますので、そちらも気になった方は見ていってください!



ここまで呼んでくださった方々、心より感謝申し上げます。

               いもうさぎ










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『1話完結!』僕に美少女幽霊の彼女ができたわけ!?〜可愛い彼女とイチャイチャするまで〜 熊月 たま @Imousagi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ