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「翻訳には雛形が用意されています。この雛形以外の形式での提出は受理されませんので注意してください。雛形は作業場の端末にはいっていますが、このようにタブレットに落とし込むことも可能です。ただし、翻訳のタブレットは1人1台で、そのタブレットは翻訳専用となり、他のアプリのダウンロードなどは認められておりません。タブレットであれば持ち運びできますので、本が持ち運べる範囲であれば何処でも翻訳が可能になります」

「本を持ち出せない地上では出来ないということですね」

「当然です。タブレットやLiVeもですが、基本、ここのシステムと繋がりのあるものは地上には持ち込めません。ですので、翻訳作業は地下施設で知珠咲長が取り仕切っているところであれば、何処でやってもかまわないとなります。極端な話、他の人の区画に本を持ち込んでやるということも可能です。とはいえ、そんな面倒なことをやるような人は居ませんが」

 ちらりと周りの本を見つけて言う麗鈴に、それはそうだろうと思う仄。

 わざわざ人の領域にこの無数の本を持ち込んで翻訳し、そしてまたココに持って帰ってこなければならないような面倒をする人がいるとは思えない。

「あぁ、それと。他者の領域を侵すことは出来ません。今の私のように権限が排除されている状態でない限り、他の区域の書物を扱うことは不可能です。システムが全力で拒否します」

「システムが、ですか?」

「本はそれぞれの区画に来る前、この島に運び込まれた時点で、トラスト工房行きか地下行きかが選別され、地下行きは更に大まかな分類に分けられます。その後、本にはそれぞれの区画の所有品であるというデータチップが埋め込まれます」

 麗鈴の説明を聞きながら、近くの本を手に取り眺めていた仄に麗鈴が改めて言う。

「『目視では確認できない』データチップが埋め込まれます」

「……はい」

「データは各区画のシステムと連動し、システムは担当者と連動します」

「つまり、私の区画の本を私自身がどの場所であっても処理することは可能だけど、他の区画の本を私が処理することは出来ない」

「そうです。そして、システムとつながっているので、他の区画のシステムを使って別区画の本を処理することも出来ません。LiVeもです。権限は全て知珠咲長がもっています。今回のように知珠咲長からの指示がない場合での権限外しは、知珠咲長に申請して受理されれば可能です」

「なんだか、受理されない可能性のほうが高い気がします」

「よくおわかりで。とはいえ、今まで申請したのは居ませんけどね。とまぁ、何処でやっても自由ですが、当分の間Hは、作業場でやるのが良いでしょう。他の場所でやるにはそれなりに慣れていないと難しいと思いますし。最後に、翻訳においてもっとも重要なこと、それは住人です」

 麗鈴は、辺りをうろつき口々に話す彼らの様子に、冷ややかな視線を送った。

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