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「驚くな、とは言いませんが、そんなにショックだという表情はしなくてもいいのでは? というより、貴女は感情を顔に出しすぎる。それは早々に治すことをおすすめしますね」

「そんなことを言われても。自分が処分されるところだったなんて、驚かないほうがおかしいでしょ」

「そうですか? 過去そうだったのであって、今は生きているんですから良いんじゃないでしょうか」

 ほんの少し首をかしげて当然のように行ってくる麗鈴に、ムッとしたような表情を向ける仄。

「それは結果論じゃないですか」

「そうですよ、結果論ですが現実でもある。死んでないっていうね」

「言ってることはわかります。でも突然そんなことを聞かされたら動揺するものです」

「ふむ、なるほど。人間らしいというか、人の中に居た証拠ですね。私にはその考えは無い。過去は過去であって今ではありませんし、未来でもない。そうですね、動揺するなら現在の状況に動揺した方がいいでしょうね」

「現在の、状況ですか?」

 事務的な話し方をする麗鈴にじっとりとした視線を向けた仄。そんな視線を気にすること無く麗鈴は微笑みを向ける。

「大体の仕事の内容は頭に入っているようですから、補足して注意点禁止事項、更に実務を今からここでやっておきます。その後、私の仕事を手伝い、見ながら覚えてください。猶予は3日間です。それとメモはとらないように」

「えっ!」

「大丈夫ですよ、純度100の頭をもってすればメモなど無くとも覚えられます」

「無茶言わないでください。初めてのことなのにメモも取らずになんて無理です」

「ではLiVeに……えっと、クロでしたね。それに覚えさせるといいですよ。とにかく紙や文字として残るようなものを使わない、注意事項の一つでもあります。この空間にいる限り、この場所に存在する本という紙切れ以外の紙切れを持ち込まなように注意してください」

「……もしかして、全てに説明書というものがなく、機械化されているのはそのせい?」

「ふぅ、そのことすら千珠咲長は言ってなかったんですか。まぁ、あの人ならあり得ることですが。その通りです。ここでは記録もすべてを機械で行い、紙媒体に残すことは厳禁です。その為のそれですし、タブレットや機器類です」

 仄の周りを飛び、ゆっくり片に座ったクロを指差し言う麗鈴。クロに瞳を向ければ、クロはにっこり可愛く微笑んだ。

「それにしても、3日は無いんじゃないですか?」

「私も私の仕事があります。貴女の為に効率が落ちるのを考慮すれば3日でも長いくらいです。何より貴女の能力を持ってすれば可能な日数です。さぁ、始めますよ」

 強制的に始まった授業に動揺どころの話ではなくなり、聞きたかった応えも聞けないまま仄は、クロに自分が復唱したことを覚えるように言い、クロはにこやかに頷いて体をゆっくり光らせ始めた。

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