一体どこに自分の住まいがあるのかと目を凝らせば、樹木が実をつけるように、一本の太い柱を中心に枝分かれした柱に吊るされてボックスが設置されている。

「森のように見えるけど、カモフラージュされてるんですね」

「ここは本島で働く連中の住処だ。他国に場所を知られないようにしている。それと、この島の古めかしい風景に人工物が立ち並ぶのはあまりそぐわないからな」

 太い柱の部分に近づけばエレベーターが現れ、それに乗り込み六階へ。

 ドアが開くと何もなくぶら下がっているように見えたボックスまで通路がちゃんとあり、それは枝分かれしながら其々のボックスの入口まで伸びていた。

 千珠咲について通路を歩いていると、自分の住処だと言われたボックスの前に人が待ちくたびれたと言わんばかりの顔をして立っている。

「お、珍しいな、お前のほうが早く着いているとは」

「当たり前でしょ、千珠咲長がおごってくれるなんてめったにないことですからね」

「そうか? 結構おごってやっているだろう?」

「貴女のお金じゃないでしょ? その場に居る誰かに奢らせといておごってやっているはないと思いますよ」

 銀色のようにみえる白く長い髪の毛を後ろで一つにまとめた女性は呆れたようにそう言い、仄かに向かって指差し早くドアを開けろとせっついた。

「開けろと言われても私は鍵をもってないんで」

「千珠咲長、貴女はここに来るまで何の説明をしてきたんです?」

「世間話だが?」

 大きなため息をついて女性は扉を指さす。

「ここは職員其々に割り振られた場所です。地下の事務室で登録したのでしょう? 扉の前に立ち、貴女であることを示せば扉は開きます。鍵なんて物質的なものは存在しないんですよ」

「言ってみれば、お前自身が鍵ってわけだ」

「バイオメトリクス認証、ですか。地下の施設の情報はこの場所でも共有されているんですね。」

「なるほど、さすが純度100%。理解は早いですね。嫌いではないです」

 終始偉そうな態度をする白髪の女性を横目に、仄は扉の前に立った。

「遠矢仄、認証しました」

 これといった認証があった感じは全くせず、扉がすらりと開く。

 一体どうなっているのかと周りを見渡す仄よりも先に、女性が先陣を切って中に入り、訝しげに見つめる仄に千珠咲が小さく笑った。

「あれが鄭麗鈴ていれいりんだ。なかなか小賢しいだろう?」

「失礼ですね。要領よく生きているだけですよ」

「要領ねぇ、まぁ、そういうことにしておいてやるか。それじゃ、後は頼んだぞ」

 千珠咲は微笑みながらため息をつき、手を降って踵を返す。

 てっきり、麗鈴のことなどを色々食事をしながら説明されるものだと思っていた仄は首をかしげて千珠咲の背中を見つめた。

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