「こんな事言いたくはないですけど、第3島に送られる人間はどの島の人間よりも随分劣っています。商売をするに必要な物以外は一切与えられず、最低限のものしか持っていない。無いものだらけでクイズの答えとしては範囲が広すぎます」

「そうだな。だが、どの島の人間も持っておきながら、第3島の人間には意図的に与えられていない物がある」

「どの島も人間も持っている? ……競争心、上昇志向、とかですか?」

「おぉ、正解だ。ではそれによって生まれてしまう物があるのはわかるか」

「それはよく分かります。妬みや傲りでしょう? 自らが中心で経験するとそれは嫌な思いをする負の感情ばかり」

「そう、こればかりはどんなに技術班が取り除こうとしても競争心というものを装着させれば必ず生まれてしまった。それによってより自らを磨こうとする力が増大することもある。強者を作らねばならない場合は非常に便利なものだ。しかし、第3島の人間にはその感情は生まれない。自らを劣っていると感じることも、相手が優っていると感じることもない」

「確かに。だからこそ、私も第3島で過ごすことができたのですけど」

「お前のようにありがたいと感じる者がいれば、当然ありがたくないと感じる者も居る。優劣がわからないということは誰に対してもそのままの態度であり、それが彼らにとっては普通であるが、第3島の人間よりも優れていると思っている連中にとってはその態度は非常に許しがたいものだ。故に、連中は上下関係をはっきりさせる為ある因子を刷り込んだ」

 そこまで聞いて仄は小さくため息を吐き出す。

 どういう因子を刷り込んだのかがわかったからだった。そしてそれは仄が最も嫌う物。

「立場をわきまえさせたんですね、位というものがあることを認識させて。人の優劣など位で決まるものでもないというのに面倒なことを」

「それは正解でもあり不正解だな。人間としての価値は確かに立場や位で決まるものではない。しかし、世界の中で優劣を決めるのに最も簡単な方法は位だ。位という制度を無くすこともムリだろうな、優劣を付けたがるのは人間の性だ。世界の簡単な優劣方法があるからこそ、自らを磨き進歩させ誰からも何も言われない立場になろうとする」

「では何故、貴女はそれを隠すんです?」

「一言で言うと面倒。二言で言えば本心が聞けないのは面倒。だから私と契約した部下からはその因子を抜き取ってある。他の連中は立場を知らなければその因子が発動することはないから、あえて言わないようにしている」

「因子を抜き取る? そんなことが出来るんですか?」

「当然だろう、お前達の権利の一切は私が握っているのだからな。さて、おしゃべりしているうちについたぞ。ここがお前の地上の住まいだ」

 そう言われて見た場所にあったのは大きな木が幾本も立ち並ぶ森のような場所だった。

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