不適合者の唄

白川津 中々

貧すれば鈍する1

 人生の中で喜びを感じなくなり久しく、また、死にたいと思う事も常であった。


 上京して十年。非正規雇用として雇われた職場に腰をかけている。安い給料と少ない休日に不満を持ちながらも労働に従ずるのは他に行先がないからであり、模索する気力も底をついているからである。


 十年もいると非正規ながらそれなりに責務が生じる。バイトリーダーのような立場だ。時給は五十円程しか変わらないのに、体良くこき使われる。下からは改善要望。上からは調整。知恵の足りない人間のフォローに周り自分の仕事が手につかないなんて事はままある。これで手取りが十五万。涙すら出ない。


 酒がないと眠れず、最近は煽る量が増える。手を出したらお終いと思っていた五リットル十リットルの酒に手が伸びそうになる。


 贅沢は要らない。せめて普通に暮らしたい。

 そう考える事がもう贅沢なのだろうか。ではもはや、死ぬしかない。


 首元に手を掛け、目を閉じる。昔読んだライトノベルか何かの女子高生ヒロインが似たような事をしていた。だが、俺はもう三十五である。中年の拗らせ方にしては、恥ずかしく、情けなく、様にならない。

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