【朗報】勇者さん、異世界でも風呂に入りたがる
「いや、やっぱり、ダメだ」
女神のクセに
悪魔のような契約を持ち出した
アリエーネだったが、
天我は強気な姿勢でキッパリと断った。
「おい、クソババァ
いいか、よく聞けよ
何度も言っているが
俺は現代人なんだぞ?
生まれてからこの方
ずっと文明の恩恵を受け続けて、
これまで生きて来てんだ
毎日風呂に入って
毎日美味い飯を食って
何一つ不自由ない暮らしをしてたんだよ
それがだ、
風呂に入ることも出来ずに
木の実とか集めて食って
魚や肉にロクに火も通さずに生のまま食う
そんな原始的な生活を
送れるはずがないだろうが」
――そ、それ、ちょっと
いくらなんでも
原始人さんに失礼過ぎないぃ?
ちゃんと火ぐらいは使ってたって
「どうなんだよ?
その異世界とやらに風呂はあんのかよ?」
異世界によっては
風呂文化があるところもあるのだろうが、
天我の行く先はそんな悠長に
風呂を気に出来る程の生活は送っていない。
人々は生きて行くだけでも必死なのだ。
「お風呂はちょっと――
まぁ、川辺に住んでもらって、
魔法とかでお湯沸かせば
なんとかなるかも――」
「はぁ?
毎日風呂入らない奴とかいんの?
ありえねえー、マジないわー」
「あんただって、
いくらババァだからって
風呂ぐらい毎日入るよな? なあ?」
――えっ? 私、女神よ?
お風呂とか入らなくても綺麗だから
ちゃんと勝手に浄化されるから
「私、女神ですから……」
「はんっ、
これだからババァは」
――ちょっと今、
鼻で笑ったよね? ねえねえ
あたし女神だからっ!
女神だからってちゃんと言ったよねっ!
入ってないとも言ってないしっ!
それに今、ババァは関係ないよねっ!
「風呂と飯、この二つは最低限、
支障が出ないぐらいの生活レベルじゃねえとな
それがちゃんとしてねえんなら
話にもならねえわ……
まあ、そこだけは譲れないかな」
――もう、なんて贅沢な転生者なのよ
もうちょっと異世界ライフを
楽しもうとしなさいよっ!
そうは思いつつも
何とかいい解決策は無いものか、
転生マニュアルを探しまくるアリエーネ。
そもそも、極悪レベルの世界に
未成年の高校生を無理矢理
独りで送り込むというのも、
まぁまぁの児童虐待という気がしなくもない。
――薄々気づいてはいたのだけれど
死んだ人達を勇者と称して
異世界に送り付けて、
敵対組織と戦わせるとか、
そこそこ悪の組織っぽいのよね、
私の今の仕事
まぁ、女神としてのお仕事なんだから
仕方ないのだけれど
せめて能力やスキルなどはてんこ盛りの
チート級にして転生させてあげなくては、
とずっと思ってはいたのだ、アリエーネも。
それぐらいしても
果たして生き残れるかどうか……。
転生マニュアルの能力やスキル、
そのすべてに目を通すアリエーネ。
そこで目にする怪しい文字。
――『
ん? なにこれ?
そんな能力、あったかしら……?
……ふむふむ……ふむふむ
……なるほど
要は、人間世界の物質をなんでも
異世界に召還出来るのね
えぇっ!!
まさに彼の要望に
ぴったりの能力じゃないっ!
それはアリエーネが
ずっと気にしていた前任者の失踪、
その元凶ともなった
禁断の能力なのだが、
新米女神のアリエーネが
そんなことを知っているはずはなかった。
「……ほら、いいでしょ?
この能力さえあれば
お風呂どころか、銭湯だって
異世界に転移させられるかもよ」
今、割ととんでもないことを口走ったのだが、
アリエーネはまだそのことに気づいてはいない。
「ふーん、風呂と飯は
俺が居た人間世界から
転移召喚とやらをして手に入れる訳か……
まぁそれなら悪くもないかもな」
「そ、そ、そうよ、
むしろ好きな物、
食べ放題なんじゃないの?」
――これ、
人間世界から召喚した食べ物って
どうやってお金払えばいいのかしら
さすがに女神がネコババの主犯て訳には
いかないわよね……
ようやくその気になった天我。
「おい、クソババァ
俺が勇者の務めやらを果たせば、
本当に元居た人間世界に
帰らせてくれるんだろうな?」
「ええ、女神に二言はないわ」
「そうか、じゃあ、俺が
その勇者の任務とやらを
即効で終わらせて来てやる」
こうして天我は
極悪クラスとされている異世界に
転生した勇者として旅立って行った。
――天我くんがどんなに優秀で
どれだけ覚醒したとしても
あの極悪な世界を正常化しようと思ったら
最低でも数年は掛かるわ
私がしっかりサポートしてあげないと……
すぐに人間の世界に帰れるような
口ぶりをして申し訳なかったけど
随分と素直に信じちゃったわね
本当にすぐ戻って来る気でいるのかなぁ
そういうとこは、
やっぱりまだ高校生なのね
なんだかんだ言っても可愛いものね
天我の旅立ちを見送ってから
そんなことを考えていたが、
その二日後、天我の言葉が嘘ではなかったことを
アリエーネは思い知ることになる。
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