身近なマイノリティ

@ATofA88

第1話


三世代同居の家庭で育ちました。


私は、祖母から聞くリアルな昔話で、その様子を想像する事がとても大好きでした。


戦争中の話

着物から洋服に変わった時の話

車がなかった時の話

家畜を飼っていたときの話など


現実とは全く違った生活を、目の前にいる祖母の口から実体験として聞けるのは、とても新鮮でした。


そして、私も成長し、学校やテレビなどで差別というものが当たり前に存在していると知り、昔になればなるほど、差別がひどかったと言う事がにわかに理解できず、祖母に聞いた事があります。

すると


障害を持って生まれると、生まれてすぐ、どこかの施設へ入れてしまう。そして誰も話題にしない。


嫁いでも、子どもが出来なかったり、子どもが出来ても、身体が弱かったり病気になったら、離縁された人もいる。


色盲だから結婚出来ない人もいる。


と、聞かされ、差別がとても身近に存在している事が、とてもショックでした。


そして、ある疑問が芽生えました。

近所に耳の聞こえないおばあちゃんがいるのです。


たしか、あそこのおばあちゃんは、耳が聞こえないはずだよね?病気になっても離縁されなかったんだね。


当時としては、珍しかったという事?


祖母

あのおばあちゃんは、生まれつき耳が不自由なんだよ。


え?!それなのに、結婚出来たの?

と言うか、耳が聞こえなくても、施設に行かなくて良かったんだ…


祖母

施設に行くのにもお金がかかるから、なかなか出来る事じゃないんだよ。

それに、あのおばあちゃんは、耳が不自由なだけで、他はとっても元気。よく働く人だよ。気持ちもいい人で、いつもニコニコしてる。


そうだね。いつもニコニコしてるね。

でも、耳の障害が遺伝かも?ってはっきりわからない時代でしょ?結婚して子ども産めるなんて、すごいね。


祖母

あのおばあちゃんは、後妻だよ。

そして、子ども4人は、先妻の子ども。

自分は1人も産んでいない。

先妻が身体を壊して亡くなってしまって、後妻に入って幼い4人の子どものお世話をしてきたんだよ。


そうなんだ。


祖母

たしか、二十歳やそこらで後妻に入ったって聞いてるよ。

でもね、いっつもニコニコしていて、えらいよね。立派だよね。誰もあのおばあちゃんの事悪く言う人いないよ。

4人の子どもの1番上の子は、物心ついてる時に後妻に来てるから、一通り経緯は知ってるんだけどね。


その子も、継母の事を、一言も悪く言わない。むしろ、怒られた事がないっていつも言ってるよ。


喋れないからだろうけど

いつも、静かに、穏やかに、落ち着いた、ゆったりとした、気の利く優しい人だよ。


虐められたりしなかったのかな?


祖母

耳が聞こえない生活がどんななのか、私らには分からないだろ

自分だけ人と違う生活がどんな辛くて寂しいかわからないだろ


きっと、たくさんあったと思うよ。

辛かったり、悔しかったり、寂しいかったり。

おばあちゃんにもわからないよ。


それでも、人に優しく出来るって、すごい事だよね。

どんな心持ちなのか想像すると、心が苦しくなるくらい、立派だなとおばあちゃんは思うよ。


そうだね。



あれから、30年近く経ちますが

私は、時折りこの事を思い出し

耳の不自由なおばあちゃんの人生を想像し

話してくれた祖母の事を思い出し

自分の今とこれから、子ども達の時代に想いを馳せ

今の世の中を他観します。

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